夜の皇帝となれ２ (ページ31)

今日:7 hit、昨日:1 hit、合計:4,280 hit

＊ページ31

「医者の不養生、って言葉あるよね」

バーカウンターでグラスを揺らしながら、五条は不意に呟いた。前置きなく切り出したので、２人は話しかけられているのだと一瞬気づかなかった。

「……確かにあるけど」

「……人形師のことを言っているんですか？」

「呪術師全体のことだよ。呪いへの対処ってのは、つまるところ人の負の感情への対処だ。気の晴れない仕事も多くなる」

「自分自身が呪いを溜めこむ危険性、ですか」

「慣れはしても気持ちよくはないよね。酔いたくもなる」

「酔えるん？それで」

「アナタの注文"フロリダ"でしょ。ノンアルコール」

「僕は何もしてないから酔わなくていいんだよ」

「ならウチはどうなんの」

"キス・ミー・クイック"を飲む宵蔵は五条にジト目を向ける。

「堂々と言わないでください」

"ギムレット"を飲み干す七海を見て、宵蔵を一撫でし五条は笑う。

「七海はさ、割と情に厚いんだよね」

「なんですか、急に」

「割り切れるけど、平気ってわけじゃないだろ。そういうところで生まれた摩擦って、大人なら多少は処理する手段があるよね。

それこそ、酒は心の特効薬だ」

「……一理ある」

「あまり面白くない話ですけど、続きますか？」

「別にからかってんじゃないって」

サングラス越しに胡乱な目を向ける七海だったが、五条の顔に、普段通りの軽薄な笑みが浮かんでいないことを確かめると、静かに話を聞く姿勢に戻る。

宵蔵は初めて見る五条のそんな表情に驚きつつも、茶々を入れまいとカクテルに手を伸ばした。それを察して、五条も話を続けた。

「呪いを産むのが人である以上、僕が受け持つ生徒たちも、いつかはクソみたいな人間の悪意と向き合う時が来る。帝夜なんか毎日だったろ」

「セラータに入った以上……しゃあないけどな」

「……呪術師ですからね」