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「__呪骸?」
七海の言葉を反芻するように、その母親は単語を繰り返した。馴染みのない言葉だからだろうか、イントネーションがどこかぎこちない。
「ええ、簡単に言えば……そうですね。呪いの人形とでも言えば分かりやすいでしょうか」
七海の説明は、呪術に対する知識のない人間への配慮が感じられた。社会人を経験していると、こういうところがしっかりしている、と五条はこっそり評価する。
「人形、って……だって、この子、こんなに」
「舌を巻くほどよく出来ていますよ。普通の人間が見れば、本物の赤子と区別がつかないでしょう」
「……この子は、本物の」
「そうじゃないことは、取引をしたアナタが一番よく分かっているのではないですか?」
「……」
「普通、呪骸をそこまで人間らしく作成できる呪術師はそういない。……これは推測ですが、アナタはそれを作ってもらうために、金銭以外に何か要求をされたのでは?」
「うっ……」
腕の中の赤子は、なるほど、よく出来ていた。宙を掴むように手足を揺らし、桜色に染まった頬をむずむずと動かす。母性本能をくすぐる教科書のような仕草だ。
とはいえ、それはあくまで見かけの話呪術師の目で見れば、おぞましさだけがそこにある。当然の話だ。なぜなら__。
「おそらくは__」
「蘇らせたい赤子の死骸を要求されたんだろ」
「……五条さん」
「……悟先生」
「赤子に限定するわけだよ。成人の死体は持ち運べないだろうからね」
なんとか言葉を濁しながら聞き出そうとした七海だったが、ズバリ言い放つ五条に肩を落とす。
母親の動揺を見るに、五条の指摘は図星だったらしい。
死体を素材とし、生前のように動く呪骸。呪術というものに理解があれば、それがいかに歪で、呪術を冒涜し、人を堕落させるものか分かるだろう。
しかし、それでも一般人に「死者が蘇った」という甘ったるい悪夢を見せるには十分だ。その悪夢から覚ますには、五条の放つ冷水のような真実が必要なのも、また確かである。
あえてその役を買って出た、と言えば聞こえも良いが、五条がそこまで七海を気遣ったかどうかは定かではない。
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柳(プロフ) - 匿名希望:我妻さんさん» あっ、ありがとうございますぅ(ニコニコ)ほら行くぞ麗音(お姫様抱っこ) (2021年4月8日 2時) (レス) id: b155e22954 (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - 柳さん» どうぞどうぞ(ニッコリ) (2021年4月8日 1時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
柳(プロフ) - 匿名希望:我妻さんさん» はいそうです。お持ち帰りするね() (2021年4月8日 0時) (レス) id: b155e22954 (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - 柳さん» ご注文は麗音ですか? (2021年4月6日 16時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
柳(プロフ) - 匿名希望:我妻さんさん» おぉ!マジか!!楽しみにしとく!! (2021年4月3日 14時) (レス) id: b155e22954 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名希望:我妻さん | 作成日時:2021年2月20日 19時