53*記憶。 ページ6
「だから、先輩が急にアメリカに行っちゃった時、悲しくて悲しくて、どうにも出来なくて」
涙が枯れてしまうんじゃないか、ってくらい泣いたあの日のことを思い出す。
「絶望感と、大切な人を急に失う喪失感」
私は、本当に空っぽになった。空っぽのまま、残りの中学生期間を過ごしてしまった。
「おもへどもなほぞあやしき逢ふことの
なかりし昔いかでへつらむ」
「ん？」
二宮くんが、不思議そうな顔をする。
「貴方のことを思っていると、貴方に逢う前は、私はどんな気持ちでいたのか不思議です」
私と同じだ、って思って、心にしまった歌。
大野先輩に出会っていない私なんて、もう想像できない。
「まだ、好きなの？」
「恋、はしてない。でも、今でも尊敬して、私の憧れ」
好きでいちゃいけない、大人の世界だけにあるルール。
「あっ、オレ、伝言預かってきたの」
「伝言？」
「これ」
二宮くんが、小さな紙をカバンから取り出して、机の上に置いた。
メモ用紙が折り紙の要領で手紙の形に綺麗に折られている。
Aちゃんへ
『個展、3月になったら始まるから、
大切な人とおいで 智』
ボールペンなのに、ペン習字みたいな綺麗な字。
変わってない、私の大好きな先輩の字だ。
「大切な人、いるの？」
大切な人、は失うのが辛い人、
ずっと一緒にいて欲しい人、
そう思ったら、何故だか翔くんの顔がふっ、と浮かんできた。
・
・
「大丈夫か？」
そうだ、あの日もそうだった。
大野先輩が居なくなってしまった学校には満開の桜が咲き誇った。
その中でひとり、小さなキャンパスを抱えて私は立ち尽くしていて。
みんなが楽しそうに写真を撮ってる中で、
くるっと振り返って私の瞳を覗き込んだのは、
紛れもない、翔くんだ。
クラスのみんなで花火を見に行っても、
「おれ、カキ氷はブルーハワイ！」
「ブルーハワイって何味なんですか？」
「んー、ハワイの味！」
真っ青に染まった舌をペロっと出す大野先輩の姿を思い出して、足が止まってしまう私に
「こっちよく見えるぞ！」
手を引っ張ってくれたのは、翔くんだ。
雪が降り積もった寒い日、
「カイロあまってない？」
「貼ってるやつなら…」
「あはっ、お裾分けだぁ」
私が背中で温めてたカイロをペタッとお腹に貼って、あったかーいって喜んでる大野先輩を思い出して、泣きそうになってしまう私に、
「これやるよ」
両手に持ったカフェオレの缶を1本、投げてくれたのも翔くんだった。
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とも(プロフ) - 初めまして。とても素敵なお話で…ちょっとうるうるしちゃいました。智くん担の私的には…智くんと…って思ってしまいましたが。翔くんの甘く切ない気持ちが心に響きました。 (2020年6月30日 13時) (
レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
ゆうにゃん - めっちゃ楽しみです(≧∇≦) (2020年5月19日 1時) (レス) id: 8772c16e2a (このIDを非表示/違反報告)
璃夢(プロフ) - sＨoさん» sHoさん、コメントありがとうございます。見つけて、読んで下さってとても嬉しいです！卒業式のシーンは、書いている私も泣きそうになってました笑 これからもどうぞよろしくお願いいたします(^ ^) (2020年4月19日 15時) (レス) id: bc361fa2d6 (このIDを非表示/違反報告)
sＨo(プロフ) - はじめまして。昨日、ふと、この作品に出会い…読み終えました。卒業式では一緒に泣きながら（笑）素敵なお話、ありがとうございました。 (2020年4月19日 2時) (レス) id: 333f9c0231 (このIDを非表示/違反報告)
璃夢(プロフ) - みかぽさん» みかぽさん 完結まで支えてくださって本当にありがとうございました。seasonぜひ聞いてみてくださいね^ ^ これからもよろしくお願いします！ (2020年4月18日 22時) (レス) id: bc361fa2d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：璃夢
| 作成日時：2020年1月16日 22時
