スパイラル[後編]

129 K ページ29

太輔に辛い思いなんてさせたい訳じゃない。
ただ、本当は一緒にいたい。我が儘を言えば、笑って許してもらいたい。辛いだなんて嘘だよって笑ってほしい。




「離れたくねーよ。離れたくない、ずっと一緒にいたい。離さないって言ってくれたろ？嘘だったのかよ…」



さよなら、だなんて言わないで。すがったらダメだって、笑って今までありがとうって言うべきだと分かっていても、口は分かってくれなくて。



さよなら、だなんて言わないで。




明日からここに帰って来れないだなんて、俺はどうすればいいの？





メンバーだから、一生の別れじゃない。




でも、これから先、太輔は俺じゃない誰かに愛を囁くの？





「俺のこと…愛してるんでしょ…」




なんで、離そうとするの。




「…愛してるよ、だから…さよならだ、北山」




太輔は泣かない。昔から頑固だ。このままきっと平行線。それはお互いを苦しめるだけ…
いつもの二人に戻るだけ。
藤 北ブランドで。
関わるのも少なくて。
太輔は横尾さんにベッタリで。
俺は･･･また、ひとり。
誰かが隣にいてくれてもひとり。
きっと寂しいんだろう。満たされることはない。
だって知ってしまったから。
何が幸せか･･･知ってしまったから。




“おかえり、宏光”



“寂しい時はいつでもおいで”



“オレの前では偽ったりしないで、本当の北山を見せて”





偽りじゃない…自分。




「俺は、…別れたくない。離れたくない！」




本当の自分。




「ありがとう…」




でも、藤ヶ谷は決してもう、受け止めてはくれないんだね。




急に、どうして…。



聞きたいことはたくさんあるけど。




聞くのが怖い。



でも、聞かなきゃ後悔する。




「…どうして、急に…」
「オレでは、北山のこと幸せに出来ないと思ったからだよ」



"北山"･･･
もう"宏光"とは呼んでもくれないんだな。




「幸せなのに！」
「ごめん、分かって」




俺の幸せは俺が決めることなのに…。
なんでお前は勝手に決めるの？
お前に勝手に幸せを決められるほど
弱くねーんだけど。
でも、太輔の顔を見てたらそんな悪態つけなくて。



だって太輔はそれ以上何も言わなくても、顔が本当に辛そうだったから。
俺もそれ以上何も言えなかった。


幸せと辛いって、なんでこんなに漢字は似てるのに。
全く意味が違うのはなんでだろうって思ってた。


それは、きっと・・幸せの後は辛いことが待ってるから、なんだろうな。

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