スパイラル[後編]

104 F ページ4

衣装に着替え終えても宏光は部屋に入って来なかった。
他のメンバーが入って来ても、宏光はまだ楽屋に来なかった。
心配になり確認しようと静かに楽屋を出ようとした時。


「どこ行くの？太輔」



ドアに手を触れた瞬間、渉の声が降りかかる。




「トイレだよ」




何事もないように笑いそう渉に返す。




「俺も行こうかな、トイレ」




すると、よいしょっと立ち上がり渉が歩き出す。




「･････え」




思わず小さな声が出てしまう。
そんなオレを気にすることなく歩く渉。




ーガチャ



ちょうど、オレのところに渉が着きそうになった瞬間、ドアがガチャりと小さな音を奏で開いた。




「・・・藤ヶ谷！？」



宏光が入って来てちょうどオレにぶつかった。
ぶつかった鼻を撫でながら、上目遣いで宏光が自分を見る。
皆がいるのも忘れて、可愛さと安堵で張り詰めた表情が一気に和らぐのを感じた。



「おはよ、ミツ。遅かったね」



オレの後ろからサッと渉が顔を出し宏光の頭を撫でた。




「横尾さん！おはよー」




可愛い可愛い笑顔で返す宏光。それを見て再び安心した。



「おはよ、北山」
「おはよ、藤ヶ谷」



“宏光”と呼ばないように注意する。
“太輔”と皆の前で呼ばないようにする宏光。



特別な呼び方が少し照れくさい。
普段通りの自分たち。



楽屋に入ると宏光は急いで、とことこ走り、淵の方で衣装に着替えていた。
そんな宏光が愛しくて。
宏光しか見えていなかった。



自分以外にも、宏光をそういう目で見てる人がいるのにも気付かずに・・・

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