スパイラル[前編]

10 F ページ10

準備が終わると楽屋を出る。今日は車で来ていたため、駐車場まで北山と向かう。北山はマネージャーに乗せてきてもらっている。自分はお酒を飲めないけどせっかくだから話しやすい場所がいいなと思い目的地の居酒屋に向かう。


途中、車の中で流れるラジオでは北山の好きだという曲が偶然流れ和やかなムードが漂っていた。


助手席で北山は窓の方を見ていて
信号待ちでは横目でそんな北山を見ていた。



今日は元気がなくなってしまった北山をとことん元気づけようと決意をかためひとり頷いた。



目的地、自分の行き付けの居酒屋に着くと目の前に広がる建物に北山は息をのんだように思う。



ただ、メンバーと二人でご飯に行くだけ。それだけなのに、二人で行くには勿体ないほどの門構え。
勿論分かってる。分かっていて連れてきた。



「…ここ？」
「そうだよ。行こう」



二人で車から降りる。
目の前のお店に少し躊躇っているような北山。
北山の背中を押してお店へと向かうと、そんなオレの腕を掴み、北山は反対の方向に歩き出す。



「もっと普通の店に行こうよ」



北山の手を掴み笑い出す。どんなに売れっ子になって収入が上がっても変わらぬ北山にまた愛しさが増す。




「今日はオレが誘ったから、出すよ。ここの焼酎美味いんだって。北山に呑んでほしいから。な？」
「藤ヶ谷呑めねーじゃん。」
「オレはいいんだよ。お前に呑んでほしいだけだから」
「・・・じゃあ7分の１は払う」



オレがそう言うと、目を輝かせ、そう呟いて今度は立派な門構えの建物に歩き出す北山。




7分の１って計算ムズくね？…と面白く感じながら自分も後に続き歩き出す。



ここは完全個室で個々の部屋も離れているため、話を聞かれる心配がない。だからここを選んだのもある。



大切な人と二人で行くのだから中途半端な店などには行きたくなかった。



店の中は薄暗くジャズが流れていて、居酒屋というよりはバーに近い雰囲気で。


北山もそんな雰囲気に満足しているように見えた。



「いつの間に、予約したの？」


予約してた藤ヶ谷ですけど・・と店員さんに言い案内されてる途中に北山が不思議そうに呟く。


「秘密」



そんな北山の頭をポンと叩き
先に個室に入って行く。



そんな行動に北山は俯き、唇を噛み締めた。




そして
その頬がほのかに桃色に染まっていたことにオレは気付かなかった。

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