スパイラル[前編]

6 F ページ6

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今日は北山との二人での雑誌の撮影の日。コンサートの特集で特別に枠をもたせてもらった単発の企画だった。


二人ということに正直、スケジュールに入った時から楽しみにしていた。もちろん、楽屋も一緒。普段時間にわりとルーズなオレがゆとりを持って楽屋入りをするなんて本当に久しぶりだった。



少しでも、一緒にいたい。
自分のせいで一緒にいれる時間を減らしたくない。
いつもそう思って北山に接している。




以上のことから、早く来すぎたオレはまだ楽屋に一人だった。今か今かと企画書を読み時計に目をやりその交互で時間を過ごしている。




ドアとは反対向きに腰掛けていたため、視界で捕らえるよりも早く、がちゃっと言う音が耳に届いた。そして振り向こうとした瞬間いつもよりワントーン高い声が部屋の中に響き渡った。



「おはよー！藤ヶ谷！」
「おはよう」



にこにこにこにこご機嫌な北山。玉森がいない場所でましてやオレとの二人きりでこんなにも明るく、ご機嫌な北山は珍しかった。




「どしたの。ご機嫌じゃん」



……聞かなきゃいいのに。
聞いてしまう。こんな表情を北山にさせるのは決まっているのに。ただ…一人なのに。
このシチュエーションはあまりにも似ていた。




「今日、9年と半年の記念日なんだよ」




誰との･･･そんなバカなことは聞かない。
…4年半前に指輪をもらったと嬉しそうに話していたシチュエーションと。




「もうそんなに経つのか。今日逢うの？」




平然としている素振りはもう慣れた。心は動揺して仕方ないのに…演技というものを9年以上も続けていれば、悲しいかな玉森のことしか見えていない北山にはバレない程度に演じることができるようになっていた。



「へへ、内緒」



いつものような悪戯な表情。
内緒だなんて言ってもそんなの分かる。逢うんだっていうことが。北山の表情がすべてを物語っているのだから。




たまにだけど、
本当に無性に泣きたくなる。
そう例えばこんなとき。




「よかったな。次は婚姻届けだったりして」




きちんと笑ってるかな？
不安になりながらも精一杯笑いかけるオレに、なわけないでしょと言いながらも北山は頬を紅くして俯いた。

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