スパイラル[前編]

36 K ページ36

バスルームへと入りカチャリとカギを閉め、そのままドアにもたれ掛かりながら座り込む。
小さな両手で顔を包む。


玉森のことが大好きなのに藤ヶ谷の顔がよぎってしまったこと。
自分の感情がわからなかった。でも、ただ一つ分かったこと…それは、あのまま抱かれたくないと思ってしまったこと。拒否を示したのは初めてで気まずさが襲う。


そのまま…服を着たままシャワーに打たれる。頭を冷やしたくて。これじゃ、まるで宮田だ。
シャワーから出ているものはお湯なんかじゃなく、水…



『北山・・・』



その優しい声が頭から離れない。それを振り払うように水を浴びた。寒さも冷たさも忘れて。ただ無心に・・・




誰かの…恋人の一番になりたいと思うのは間違ってることだろうか？相手の心すべてを占領したいと願うのはおかしいのだろうか？俺にはわからなかった。しかし、そう思う心を止められるすべを知らない。



玉森の心のどれだけを自分が占めているのだろう。多く見て３割だと思う。



そして自分の心のどれだけを玉森が占めているのだろう。自分にとって７割と言っても過言ではなかった。



でも、今は…？



そんな疑心暗鬼な気持ちから目を背けるように、濡れた服を脱ぎ捨てシャワーを浴び直した。




シャワーを浴び終えスウェットに着替え寝室に戻ると、少しだけ聞こえる寝息。
玉森はシーツを抱きしめ眠っていた。




そんな玉森のそばまで行き玉森の前髪を掻き上げて、



(ごめんね・・・)



優しくおでこに口付けをした。


「ん・・・」



眉を下げ幸せそうに寝ていた玉森がゆっくり瞼を開けた。



「…かわいーみつ」



イタズラが成功した時みたいに嬉しそうに笑う玉森に、思わず抱きつき玉森の上に乗る。



久しぶりに見た玉森の愛しい笑顔が垣間見れ、ぐらついていた心が少し薄れる。



二人の間で彷徨う気持ち


それはスパイラル・・・

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