きっとこの先何年経っても。 (ページ29)

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深澤side

結果から言うと、俺の勝ち。
阿部ちゃんに似たぬいぐるみは俺の予定通りの動きで穴に落ちて、店内に景品ゲットを知らせる音楽が鳴り響いた。

阿「....ほんとにとっちゃったよ、すごいね」

眉尻を少し下げて笑う阿部ちゃんに取ったぬいぐるみを手渡す。

深「これ阿部ちゃんに似てるよね。ってことでプレゼント」

阿「え、いいの？いやでもふっかのお金で取ったものだし....」

深「うん、つかむしろ貰ってくんない？俺ん家ぬいぐるみ取りすぎてもう置くとこないのよ笑」

断れなさそうな理由も添えてやると、それ以上は反論せず素直に受け取ってくれた。
ぬいぐるみを両手で持ちながら見つめ合う阿部ちゃんは、小さい頃俺の家に遊びに来た時にクマのぬいぐるみを抱きかかえながら見つめていた阿部ちゃんのようだった。

深「ほら早く家にご飯いらないって連絡しちゃいな。ふっかの家で勉強して食堂のご飯食べるって言えば怒られないっしょ？」

阿「....わかったよ」

スマホを取り出して、母親にラインを入れる手に心なしか力が入っているように見えて、

あぁやっぱ親と何かあったんだな、
と予想をたてる。

勉強オタクの阿部ちゃんが「勉強が嫌になった」と言うくらいだし
考えられる理由としてはそれくらいだ。

そういえば今日佐久間も暇って言ってたな。
呼んでやろ。

と思って阿部ちゃんが連絡してるのを見ながら俺も佐久間にラインを入れた。

阿「お邪魔します」

深「どーぞ。って言ってもいつもの定位置だけど笑」

今日もいつものように食堂の一番奥のお座敷の席に座る。
幸い平日ということもあって店の人手は足りているしお客さんも少ないから、勉強もしやすいだろう。

真面目な阿部ちゃんは、座ってぐーたらしだす俺と違って、おもむろにカバンから勉強道具を取り出して机に広げ始めた。

深「真面目だねぇ」

阿「いやテスト前だよ、ふっかがやばいって」

深「数学わからないとこ阿部ちゃん教えてくれる？」

阿「....考えたけど無理だわ、俺数ⅡBはまだしっかりマスターしてないもん」

深「ちょっと待って俺らの内容勉強してんの！？」

阿「え？うん、高１の数学と化学は全部終わったからね」

この子なにを言ってるの？
すごくない....？

よくこんな田舎町からこんな天才が生まれたもんだな、
と面白くなってしまう。

いつもの９人を思い出しても、やっぱりこの町の七不思議に入るレベルでおかしな話だ。