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その只ならぬ声に、私は足を止めて声の主を探す。雨地も止まって、軽く辺りを見渡して、ある一点を注視し始めた。その視線を追うと、人通りの少ない路地に行き着いた。
 暗い路地では、三人程の人物の影が取っ組み合っている。それも、二人が一方的に一人を痛めつけているように伺える。
 一人がもう一人の胸倉を掴み、そのまま頬を殴り飛ばした。

「……」

 私は胸の前で、無意識に握り拳を作っていた。
 こういうのには関わらない方が賢明なのだろう。変に刺激してしまえば、酷い結果になるのが目に見えている。
 だが、嫌な気分だ。偽善かもしれないが、このまま見過したくなかった。

 その時、隣にいた雨地が一歩を踏み出した。

「……雨地君!?」

 驚いて声を上げるが、雨地は止まらない。三人がいる所まで、真正面から向かっていく。
 三人は近づく雨地に気づかない。彼は幽霊だし、彼からも何も出来ない筈だ。雨地はその事を理解した上で行動しているのだろうか。

 幽霊を止められる者は霊感を持つ者しかいない。
 つまり私だ。

「ちょ、雨地君! 待って!」

 慌てて駆け出す私。大きな傘は重量があり、走るのに余計な足枷になっていた。
 一方の雨地は、長い雨で出来たのだろう、大きな水溜りの前に来ていた。三人と雨地を隔てた水溜りを、雨地は構わず通ろうとする。
 三人は気づかない。

 足が水面に入る。
 水音を立てた水面に、一つの波紋が浮かんだ。

 その時、殴ろうと手を挙げた一人の男が、一体何を思ったのか、水溜りの方を向いて_____。
 その強面の顔を青くさせた。

「お、おい! ズラかるぞ!」

 誰か来ないか見張っていたらしい片割れの男に、その青い顔を向ける。男は「はぁ?」と疑問の声を上げるが、強面の男は構わず男の腕を引っ張り、有無を言わさずに何処かに行ってしまった。
 去っていく二人の男の背中を見ながら、追いついた私は雨地を仰ぎ見た。そして、もう一度彼らが去った方向を見る。

「今……あの人、雨地君を見た?」

 信じられなかった。まさか、あの男に霊感があるとでも言うのだろうか。
 だが、雨地はそれを否定した。

「違うな。あいつは俺を見てはいなかった」
「え?」

 雨地はこちらを見て、

「ヤツは……これを見たんだろう」

 下を見た。釣られて私もそれを見る。
 大きな水溜りだった。次々と出来る雨の波紋の上に、見下ろす私と___雨地の姿があった。

 幽霊である雨地の姿が、映っていた。

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設定タグ:オリジナル , 幽霊 , 学生   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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燕*(プロフ) - ちくわのカルパッチョさん» コメントありがとうございます!あの時はリクにお答えして下さったこと、ご愛読やお気に入りまでして頂いて、心から感謝申し上げます…!お褒めの言葉、とても嬉しいです!これからも当作品を宜しくお願い致します! (2016年1月6日 2時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわのカルパッチョ(プロフ) - だいぶ前にイラストのリクを承った者ですが、それがきっかけとなりあの時からこの作品をお気に入り登録させていただいています。とても描写が綺麗で繊細でいつも引き込まれます。これからの展開が楽しみです^^ (2016年1月5日 23時) (レス) id: 5e0cf1c1a8 (このIDを非表示/違反報告)
燕*(プロフ) - 伝吉さん» コメントありがとうございます。紹介の件は大丈夫です。まだそこまでネタバレしてはいけない所まではいってもないので← イラスト、楽しみにしておりますね! (2016年1月4日 22時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
伝吉(プロフ) - 近日中にイラストを上げられそうなのでご報告にあがりました。そこで一つ提案なのですが、この小説を私の作品で紹介しても構いませんか?勿論、ネタバレしないように気を付けます。どうでしょうか? (2016年1月4日 21時) (レス) id: bc33d6f617 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 伝吉さん» うわああわざわざ読んで下さってありがとうございます!とても励みになります…。これからも日々精進して参ります! (2016年1月1日 0時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2015年7月17日 1時

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