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「…あの」
「はい？」
「店前のバイクって…」
「ああ、俺のです。海に行こうと思ったら、雨でこの有様で」
「それは災難でしたね…」
苦笑する女性。
…同情されると、なんだか恥ずかしい。
ほんとに、朝天気予報を確認しなかった自分を殴りたい。
「…でも、良かったです。もともと、ここ今日お休みだったんですけど、店に忘れ物してきちゃって。雨も降ってたし、ダルいなーって思ってたんですけど、来なかったら風邪引いてたかもしれませんね、なんて」
ふふっと、笑う。
子供みたいに笑う人だな、と思った。
「…大丈夫なんですか、お休みなのに。勝手に俺なんか入れちゃって」
「あのまま無視したら、後味悪いでしょう。無視して風邪でも引かれたら困りますから。それに、よくここで雨宿りする人いますから大丈夫ですよ」
そこら辺は緩いのでと言って、マグカップを口につける。
しんと沈黙になる、薄暗い店の中。
少しの気まずさ。
窓を見れば未だ降り止まない雨。
バイクに雨が当たっては跳ね返るのを、ただ何となく見る。
しばらく続いていた沈黙を破ったのは、彼女だった。
「…バイク、お好きなんですか？」
「……あ、はい。よく、天気のいい日とかに乗って、風に当たるのが好きで…」
思わず聞かれた質問に、咄嗟に答える。
天気のいい日とかいって、今日は悪い日じゃないか。
言ってることがまるでおかしくて、羞恥心のあまり顔を逸らす。
「ふふ、それは、いいですねぇ。私は、バイク乗れませんから。ここら辺、晴れていると海風が気持ちいいんですよ。ドライブとかにはぴったりです」
「そうなんですか…」
「ええ。いいなぁ、私も乗ってみたいです。私も、バイクの免許取ってみようかな」
「……良ければ、乗りますか？」
気づいたら、そんなことを言っていた。
ぽろっと口から零れたその言葉。
はっと、気づいた時には、目の前で目を丸くしてこちらを見る彼女。
また訪れる沈黙。
マグカップから出る湯気だけが、ゆらゆらと動いていた。
「……っえ、あ、いや！す、すいません。なんていうか、いま、雨宿りさせてもらってるから、お礼にっていうか………マジで、すいません…迷惑でしたよね」
変にどもってしまったせいで、口先から出た言葉ばかりが出てくる。
今日一番恥ずかしい。
ほんっと、ついてなさすぎる。
けど、彼女はそれに「はははっ」と笑う。
ぽかん、とする俺にまた子供みたく笑って言った。
「…じゃあ、お願いします」
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作者名：サンリーブ | 作成日時：2022年9月21日 17時
