白のリコリスが咲く【Harry potter】 (ページ47)

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4月の満月前後は、久しぶりに体調が思わしくなかった。毎月マダムから〝シロップ〟を貰うことで、孤児院にいた頃よりも随分と過ごしやすくなっていたので、すっかり気を抜いていたのだ。

「試験に向けて忙しくなっているのも原因でしょう__」

どうやら初めての試験に肩に力が入りすぎていた様だった。マダムにそう言われ、Aは肩をすくめるしかなかった。

それは5月になってもなかなか改善されなかった。
再び誰かの〝声〟がザワザワと聞こえることがあった。〝声〟の内容は試験への不安や未だ解決していない〝秘密の部屋〟への恐怖など様々だ。

〝秘密の部屋〟の事件で生徒達の行動範囲に制約が多く出来て以降、ドラコとの箒の飛行訓練は一切出来ず、5月の終わり、Aは最後の飛行訓練に挑んだ。

「ミス・グレイディ、よろしい！期待以上の成長ぶりです」

Aの飛行は、初めの頃が想像できない程滑らかで安定した乗りこなしだった。高さやスピード感も十分にあり、フーチ先生は満足した様に頷いた。

「ありがとうございます、先生！」

授業を終えたAは4月同様、体調の不調はあったもののそれさえも吹き飛ばしてしまうくらい久しぶりに気分が良かった。

「今のAの箒の乗りこなし、コリンが見たらびっくりするだろうなぁ」

先日、マダム・ポンフリーが6月初めにはマンドレイク薬が完成すると教えてくれた。Aはルーナと共に寮へと足を進めながら、コリンやジニーとまた以前の様に並んで笑いたいと思った。

ふと、パッと大広間からジニーが足早に出ていくのが見えた。ジニーは体調不良を理由に飛行訓練には顔を出さなかったのだ____その後ろを、追う様に静かにクレヴァが後を付けている。

「ルーナ、私、ジニーに声を掛けてくる」
「うん、先に寮にいるね」

ルーナと別れて彼らを追うと、三階に上がったところで見失ってしまった。

___どこに行ったのかしら。

Aは目を瞑って全神経を集中させた___明日は満月だ。今のAは嗅覚と聴覚が特に敏感になっている___自分のその感覚を〝意図的に〟使おうと思ったのは、これが初めてだった。

いつも、感じていたものはAが必要としなくても勝手に情報として流れ込んできたのだから、困惑していた。

でも、今は自分の力を信じて使う時。

___ジニーの為に

心の中で強くそう思った瞬間、遠くの方から、ピチャピチャと水が落ちる音、誰かの泣く声、そしてあの生臭い匂いがした。