【銀魂】空想世界が現実世界 5【坂田銀時】

負け　銀時side ページ47

……俺も、逃げていた。Aへの気持ちから。こらから訪れるだろう喪失感から。失いたくなかったものを失う痛みを、俺はずっと前から知っていたから。その『失う』が『死』ではないにしろ、その喪失感は耐えがたいものになるだろう。


……だから俺は、逃げた。今も逃げようとしていた。


「ごめんでも、逃げないって決めた。銀ちゃんが迷惑だって言っても邪魔だって言っても、言うって決めたの。悪いけどもう引き下がらない」


……違う。迷惑なんかじゃねぇ。邪魔だなんて思うもんか。本当は欲しくて欲しくて堪らねぇんだよ。

堪えきれずにその目から透明な雫を頬に流したAを見ては、胸のあたりが酷く苦しくなる。が、俺のそんな気持ちを知るよしもないソイツは、それでも俺に伝えようとする。

A自身は俺がAの言葉を迷惑に思うだろうと思っている。それなのに、それでも伝えようとしているソイツは、怖くても言おうとしているソイツは、……きっと俺よりも強い。


「…確かに、私はずっと、ここにいることは出来ないよ多分。きっと…そのうち帰るよ自分の世界に…！！」


ボロボロと泣きながらも、声を詰まらせながらも、Aは言葉を紡いでいく。その泣き声に混じる言葉は、純粋で、綺麗で、全部を俺に伝えようとしているように見えて。零れ落ちていく涙に、俺は何故か目を奪われてしまう。


「…でも、でもね……！」


……Aは、俺をその輝く目で真っ直ぐにしっかりと見つめて。


「私は、ここに居られる今を、……銀ちゃんの隣で生きたいの…！！」

銀「……！！」



……確かに、そう言った。震えて、弱々しい声。それなのに、その声には熱が籠っていて、俺は今、声にもしっかりと温度があることを知った。


ー・・あぁ、ったく。




「…私、…銀ちゃんのことが好き！！！」


ー・・マジでお前は、ホントにバカだ。


いつだってそうだ。Aはいつも。いつも、俺が深く悩んでいることを一瞬で消し去ってしまう。それも、単純で、簡単な言葉で。それに安堵してしまう俺も俺だが。


……もう、これから先だとか、喪失感だとか、そんなものも、もう全てどうでもよく思ってしまった。


……こりゃ、俺の負けだな。


ほぼ無意識に、俺の足が動き出すのには、階段を駆け上がるのには、もう十分すぎる言葉だった。

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