13.おにぎり ページ13
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バス停での出来事からしばらく経った、
とある日の授業間の休み時間のこと。
「A〜」
侑くんの双子の片割れである治くんが
ちょいちょい、と教室の入り口の所で手招きをした。
「……ん?」
私ですか?と自分を指さすと彼は小さく頷いた。
周りを見渡すと侑くんも銀島くんも居なくて。
なるほど、とりあえず視界に入った私を呼んだのだのか。
と勝手に解釈する。
若干クラスの子たちの熱い視線を集めつつ、
はいはい?とおっとりとした表情の治くんに駆け寄った。
「
「!……あ、ちょっと待っててね」
その言葉ですべてを察して彼に背を向ける。
失礼しまーす。と侑くんの机の中を漁る。
すると中から【宮治】と書かれた英和辞典が出てきた。
やっぱり。また借りっぱなしだ。
侑くんは治くんから物を借りることが多いらしく、
それを返すのを忘れていることも多いらしい。
ほんと。つくつぐ彼は困った子だと思います。
「はい、どうぞ」
「ありがとさん。助かったわ」
侑くんの代わりに英和辞典を返す。
「あ、あとよければコレもどうぞ」
そしてラップに包まれたおにぎりも一緒に手渡した。
本当はこの休み時間に食べるはずだったんだけど、
前の休み時間に食べたもう1個のおにぎりによって
お腹が満たされてしまい、どうしようか迷っていたのだ。
もちろん口はつけていない。
「えっ、ええの?」
「うん。あげる」
「ほんまに貰ってええの??」
「どうぞ〜食べていいよ」
「あんがとぉ。むっちゃ嬉しい」
両手でおにぎりを大事そうに持って目を輝かせる治くんが
あまりにも可愛くて、はわわと声が漏れた。
私と同じように後ろから数人の女子の恍惚とした声が聞こえる。
これが母性というものか。(?)
治くんの可愛さにちょっとだけ悟りを開きかけた。
ただ、このときの私は、
「おかえり。…治どうしたの、それ」
「Aがくれた」
「Aって、…Aちゃん?」
「おん。強請ってもやらんからな」
「………………」
この『おにぎり』がきっかけで、
角名くんが本気を出してくるなんて知る由もなかった。
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作者名:. | 作成日時:2020年1月29日 23時