８話 ページ8
とはいえおかしなもので、キャリーバッグは着物に合わせた可愛らしい桜柄を購入していた。こんな風に、変なところで感情が入り交じるから余計に混乱するのだ。暗殺者にとって大切な、割り切るということが上手くできていない、いい証拠である。
無理やりポジティブに捉えるならば、こんな未熟な女は相応しくないと向こうから断ってくれるかも知れない。強引に一縷の希望を抱き、指定された時間に間に合うようにAは家を出た。しばし、ジャポンとはお別れだ。
「お待ちしておりました。ミヤマ様でお間違いないでしょうか」
「は、はい……」
空港に到着したAを待っていたのは、黒いスーツを着た三人の男達であった。みながみなよく訓練されていることが分かる。ゾルディック家の執事と名乗った彼らは、Aを国の要人ででもあるかのように丁重に私用船まで案内した。ただの移動だからもっと雑なものを想定していたのに。しかしこの程度で驚くのは早計であったと、わずか数分後に思い知った。
「これより三日間、当機はパドキア共和国のエリトリ空港まで飛行致します。ミヤマ様はこちらのお部屋をお使い下さい。何かお困りのことがあれば、室内の内線からご連絡下さいませ」
「まあ……こんなに立派なお部屋を使わせて頂けるのですか？」
案内された部屋もすさまじい。ベッドはキングサイズで、大きな窓の向こうには上空からの景色が観望できる。天井が高く窮屈さを感じさせないし、小型の冷蔵庫やテーブル、いすなどの調度品は一流ホテルと遜色ない。壁や家具を彩る装飾品も下品でない高級感があり、絨毯を土足で踏むのを躊躇してしまうくらいだ。これがゾルディック家の財力か、と生活レベルの差に少しだけ落ち込んだ。
「もちろんでございます。それでは、三日間のフライトをお楽しみ下さい」
そう言い残して執事は部屋を離れてしまった。広い船内で一人になると途端に物寂しさが身を襲い、孤独感を紛らすように急ぎ足で部屋に入る。玄関で靴を脱ぐジャポンの文化とは違い、海外では大抵室内でも靴を履いたままで、パドキアもそうらしく靴箱は見当たらなかった。
改めて室内をぐるりと見渡すと、テーブルの上に冊子が置いてあった。手にとって見ると、「船内での生活について」と題されている。目次には「洗濯物」「食事」と題名通りの項目が並んでいた。洗濯をしてもらえるのはありがたい。持ってきた着物は最悪着回そうと思っていたからだ。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
