２３話 ページ23
キモノの襟にたおやかな指を添え、Aは遠く窓の向こうに飾られた街並みを眺望した。彼女が育った辺境の地は遙か先に小さく、既に景色の半分ほどは海の群青色が占めている。
「これ以上に何を望むことがありましょう？ いいえ、いいえ。ありませんとも。それは強欲というものです。先日申し上げた通り、お側にいられるだけでこの上ない幸せなのです。
ですからどうか安心して下さいまし、イルミ様。わたくしはどこぞの間諜でもなければ、内部に潜り込んでゾルディック家に害をなさんとする悪党でもありません。恋に溺れた一人の小娘にございます」
「……！」
Aはイルミが疑いの目を向けていることに気がついていた。あれだけ一挙手一投足にあたふたしていたものだから分かりやしないと高をくくっていたイルミは、微かに目を見開いてAを見た。細首を持ち上げて隠された瞳で視線を交え、ジャポンの女は美しく微笑んだ。どうやら、思っていたより頭のいい女であるらしい。
「いつ気づいた？」
「イルミ様のご家庭の事情を考えればすぐに分かります。あとは私情です」
「私情？」
「ええ。その……イルミ様は、夫、となりますでしょう？ イルミ様が別居に近しい状態をお望みにならない限り、少なからず生活を共にするのですし、あまり心労をかけてはなりません。今のうちにでき得る限り疑いを晴らしておきたいのです。平穏な生活のためにも」
──頭はいいが、それを用いる点がどこかずれている。面倒がなくありがたいことではあるが、それにしてもイルミに対しての気遣いが甚だしい。こうも滅私されると逆にどうしたらいいのか分からなくなってしまう。
実を言えば、Aもイルミとの距離感を図りかね、いささかやりすぎている節があるのだが、散々彼女の熱狂を見てきたイルミは素かそうでないのか判断がつかなかった。
「……お気遣いどうも。先に言っておくけど、母さんの方針で部屋は隣同士だし、可能な範囲で多くの時間を一緒に過ごすよう言われてるから、案外普通の結婚生活みたいになる予定だよ」
「まあ……！ 恐れ多いことです。ご迷惑をおかけしないよう尽力致します」
思惑を見抜かれて少し居心地悪く、イルミはため息をつきながら彼女が不安がっている要素をいくらか潰した。感極まった様子のAは、白い肌に赤みを差して嬉しいという気持ちを前面に押し出している。その様子は普通の少女そのものであり、だからこそ、イルミの気が少し抜けた。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
