１４話 ページ14
「ごめんなさいね、イルミは仕事があって到着が少し遅れるの。あと少しで着きますから、もう少しだけ待って下さいね」
「ええ、その、お構いなく」
当主とその妻の側にいることを許されるだけあり、紅茶を淹れる執事の立ち姿はまさしく一級のそれである。香りからして高級品の紅茶が注がれたカップをAの前に置き、これも美しく一礼して執事は下がった。果たして味が分かるだろうか、恐懼して凝り固まった喉に、半ば無理に真っ赤な液体を流し込む。
一口、舌に触れた瞬間、Aは常日頃から閉ざしているのと大差ないほど細めている目をぴくりと動かした。
「……恐れながら申し上げますが、わたくし、毒にはそこそこの耐性を持っておりますので、毒殺は不可能かと……」
続いて発した一言に、キキョウとシルバのオーラが変質する。少なくとも無力な小娘ではないと認識を改めたらしく、あからさまに圧迫感のあるものではなくなった。実力の差は依然として明確だが、完全に侮られていた先ほどよりはましな扱いである。
何気なく、長旅を気遣うような素振りすら含んで勧められた紅茶の中には毒が紛れ込んでいた。Aは料理を得意とする自身の性格上毒物に対する強い興味があり、暗殺にも使えるとの判断から他の訓練以上に毒には気を遣っていた。その甲斐あって、見合い相手に会う前に呆気なく死ぬ惨事は避けられた。
「味から察するにタリウムでしょうか？ 致死量を遙かに上回っていますね。流石にこの量だと体が火照ってしまいます。お見苦しいかとは思いますが、ご容赦下さいませ」
「まあまあまあ、種類までお分かりに？ あなた、この子素晴らしいわ。オーラも美しいし」
「そう騒ぐな。決めるのはイルミだ」
「ええ、もちろん。今帰ってきたみたい」
タリウムの影響か、普段よりも過剰に分泌された唾液をごくりと飲み込む。いよいよだ。毒を盛られたことからも分かる通り、結婚が不成立だった場合この家から生きては帰れないだろう。そもそも道中、執事があれだけ事細かに内状を語った時点でおかしいとは思っていたのだ。あれだけ秘密を明かされて、まさか無事に帰れるとはつゆほども思えない。
Aに残された選択肢は三つ。どうにかして取り入り結婚にこぎつけるか、真実を話して断り命を捨てるか、あるいは隙を見て逃げ出すか。最後の策はまず不可能であるから、実質二つ。
扉が開いた。入ってきた青年を見て、Aの時間は凍り付いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 543人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「HUNTER×HUNTER」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
