記憶の欠片 むっつめ ページ7
喫茶店で軽食を食べて、彼女が行きたいという場所や通りすがりにあった気になるお店などを訪れながら街を歩いてまわった。
目的の場所に行く度に、Aは楽しそうに目を輝かせるから少しずつでも彼女を取り戻せているのではないかと錯覚した。2日後に死のうとしている人間には見えないくらい彼女の笑顔は明るくて、綺麗な笑顔だった。
夜はネットカフェやカラオケでは過ごせないから、ファミレスを転々として仮眠をとりつつ夜を明かした。
仮眠中の彼女の寝顔を眺めながら、なぜ彼女がこんなにも苦しまなければならないのだろうかと、なぜ彼女がこんなにも辛い思いをしなければならなかったのだろうかという疑問が脳内を埋め尽くす。もしもあの日、2人で一緒に帰っていれば、彼女がこんなに苦しむことはなかったのかもしれない。もしもあの日、絶望の淵に立ってしまった彼女を1人で家に帰さなければ無理に明るく振舞おうなんて考えなかったのかもしれない。もしも、もしも、もしも......
そんなもしもの世界ばかり考えているうちに、空は明るくなり始めていた。今日は作戦の決行日だ。
*****
「さて、今日はどこに行く?」
「今日は行きたいとこ決めてるの」
「どこに行きたいの?」
「遊園地!」
"ここに行きたい!"と見せられたのは彼女のスマホの画面。目的地までのルート検索は既に終わっていて、行く気満々のようだ。
「わかった、そこに行こう。案内よろしくね」
「任せて!」
そう言った彼女は自然な流れで僕の手をとった。驚いたけど、すぐにその手を握りかえせば上機嫌に“こっちだよ!”と、僕の手を引いて歩き出した。
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あいろ - 涙が、、、、とってもいい作品でした! (2019年10月13日 8時) (レス) id: 7961ad3a74 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおい | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/aoihomupe/
作成日時:2019年7月2日 15時