記憶の欠片 いつつめ ページ6
乗っていた電車を降りて改札をくぐり抜ければ、目の前に広がる景色は人の海。
「うわ、人多いね」
「そうだね」
都心だから人が多いのは当たり前なんだけど、想像していた以上に人が多くて、はぐれそうになる。
「真冬早く行こう!」
見たことの無い人の多さに少しテンションが上がっているAは、早く早くと急かすように繋いだままの手をひっぱる。
「わかったから、ちょっと落ち着いて。まずどこに行く?」
「大きいディスプレイがある所!」
「じゃあそこに行こうか」
目的地が決まったのなら迷う必要は無い。スマホの地図アプリを使って目的地までの道順を調べる。目的地は電車を降りた駅からそんなに離れていなかった。
「ここからそんなに遠くないって。行こっか」
「うん、行こう!」
はしゃぐ彼女の手を引いて歩き出す。楽しそうに歩く彼女を見て、少しほっとした。
*****
「わあ、すごいすごい!真冬見て!」
「うん。すごいこんなに大きかったんだ」
テレビで見るよりずっと大きなディスプレイを見上げる。そこで流れる映像は、もうすぐ発売されるというCDの情報。収録曲の中から1曲、CDの宣伝のために流されている。その曲は、"諦めずに生きていれば、いつかきっと報われる。"そんな内容の曲だった。
「そんな綺麗事で、この世界が救われるはずがないのに」
「A?」
「んーん、なんでもない!」
ボソリと何かを呟いた彼女の目は、いつもの綺麗な目じゃなくて、どこか濁って見えた。だけど一瞬のことだったから気のせいかもしれない。そう思って深くは追求しなかった。
「真冬だけは絶対に生かしてみせる。死ぬのは私だけでいいから」
彼女の呟きは人々のざわめきにかき消されて、僕にその声は届かなかった。その声を聴き逃さなければ、もっとなにかできたかもしれないのに。
しばらくその場でディスプレイを眺めていると、満足したのか次の場所に移動しようということになった。
「次はどこに行く?」
「お腹すいてきたし何か食べる?」
「いいんじゃないかな」
すぐに付近のお店を検索する。都心だからなのか沢山のお店がずらりと画面に表示された。
「なんか沢山あるけど、どこに行きたい?」
「んー、沢山食べたいってわけじゃないから、喫茶店とかそんな感じのお店?」
「じゃあ、このお店とかどう?」
「あっ、いいかも」
「じゃあ行こう」
手は繋いだまま、新しい目的地に向かって歩き出す。なんだか冒険をしている気分になってきて楽しくなった。
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あいろ - 涙が、、、、とってもいい作品でした! (2019年10月13日 8時) (レス) id: 7961ad3a74 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおい | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/aoihomupe/
作成日時:2019年7月2日 15時