068:カルミア ページ23
耳を塞いだままふるふると首を振ってAは言い募る。
『なんですか、だからお前が罪を背負う必要はないとでも言いたいんですか!?』
「…A、」
『そんなわけないじゃないですか!
例え降谷さんの言うように景光さんがあなたの足音を聞いて引き金を引いたとしても、元凶は私でしょう!?
私があの時ミスしなければ景光さんは死ななかった。降谷さんがこのことで悩むこともなかった!』
「違う、そうじゃなくて、」
『悪いのは降谷さんでも赤井捜査官でもなくて私なんです!あの夜、ここで何が起きていようとそれは絶対に変わらない!だから私は…っ!』
「A!!」
彼女の手首を掴んで耳から離させた。
Aは唇を噛み締めて俺を見上げる。濡れた瞳を綺麗だと、場違いなことを思った。
「…俺はもう逃げないよ。だからお前も逃げないで聞いて」
『……っ』
「明日、全部終わったら今度こそ言わせてくれ。
ずっと言いたかったことを言う。本心を言うから。
だからAも…本当はどうしたいのか言ってくれ」
Aを引き止めた日から、それまでの日々のことは禁句になった。
何事もなかったようにバカみたいな口喧嘩をして、よくわからない距離感で遊んで、お互い1度も過去のことに触れなかった。
好意がバレバレなのは元からだったし今更隠そうともしなかったけど、好きだという言葉だけは絶対に言わなかった。
俺がそれを口にした瞬間、この不安定すぎる関係は崩れる。
そうわかっていたから、胸の奥に抑え込んできた。
Aはゆっくりと手を下ろす。
息を吐いて小さな声で零した。
『…バカじゃないですか。なんでこのタイミングで盛大に死亡フラグ立てるんですか』
その声色には少しだけ普段のAが戻っているように感じた。
Aはおもむろに右の耳に手をやり、片耳だけイヤリングを外す。
そしてそれを俺の耳につけた。
『預けときます。絶対返してくださいね?私の1番の宝物なんですから』
その意味がわからないほど馬鹿じゃない。
Aはまだ少し潤んでいる瞳のまま、緩く微笑んだ。
『絶対ですよ。絶対帰ってきて下さいね。
約束破ったら一生許してあげないですからね』
「ああ、わかってる」
耳元で揺れるそれに軽く触れて頷く。
そして我慢出来ずに彼女を抱きしめた。
Aはびっくりしたように体を跳ねさせたものの、やがてくすぐったそうに笑って。
『しょうがないなぁ、降谷さんは』
そう口にしたのだった。
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びびか(プロフ) - この作品の作り込みが凄すぎて本当に好きです。。素敵な作品に出会えて良かったです!ありがとうございました! (2023年3月27日 20時) (レス) @page32 id: b527a1d6e3 (このIDを非表示/違反報告)
わか - 想像するだけでこっちが照れてくる (2021年12月7日 15時) (レス) @page30 id: 9e519c38d5 (このIDを非表示/違反報告)
よる - ほぉ…これが降谷さんとの至高の領域だな???ちょっと最上級の語彙力調達してきますね?手持ちの語彙じゃこの素晴らしさは語れないので!!!! (2021年4月30日 23時) (レス) id: 6e0ab3a00d (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - あむむさん» 完結してからしばらく経ってるのに見つけてくれてありがとうございます…!!そんなに褒めて頂けるなんて嬉しすぎて私の心臓が取れます…!25機も消失してご無事ですか!?笑 最後まで読んで下さりありがとうございました!! (2018年11月9日 17時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
あむむ - 初めまして。どうにもこうにも我慢出来なくてコメント失礼します!泣きましたキュンキュンしました心臓取れました辛すぎましたその文章力に脱帽しました!25機くらいは消滅しました…!完結おめでとうございます。お疲れ様でした! (2018年11月8日 21時) (レス) id: eaf01be664 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2018年9月21日 21時