顔が良ければ全て良しだと思うなよ！！ ２【降谷零/安室透】

059：ワスレナグサ ページ14

『降谷さん！！』


相変わらず傘もささずに雨の中を歩いていた彼は、私の声に足を止める。

それでも振り返ろうとしない彼の前に回り込んだ。

傘を傾けて見上げれば、久しぶりに彼と目が合った。


『…なんで避けるんですか』

｢……別に避けてなんか｣

『はぁ！？ふざけてるんですか！？』


あれだけ露骨に逃げといてそれですか！？

降谷さんはグッと奥歯を噛んでまた目を逸らす。


『どうせまた面倒なこと考えてるんでしょう！？
私が気にしないでって言ってるんだから気にしないでくださいよ！』

｢そんなことできるわけないだろ！お前は俺のせいで…っ｣

『だからあれは降谷さんのせいじゃないって言ってるじゃないですか！』


ずぶ濡れの彼に傘を差した。

あの時、約束したのに。


『“たとえこの手が朽ちようとも、あなたに傘を差しましょう”』

｢…っA、｣

『言ったじゃないですか、あの雨の日に。
今も変わってません。ずっとあなたのそばにいます…！』


降谷さんは苦虫を噛み潰したような表情で俯いている。

ここで彼を逃がしたら、多分これから先彼とはまともに喋れない。

それがわかっていたから、私は降谷さんに詰め寄った。


『ねえ降谷さんお願い、逃げないで。
私はあなたと一緒にいたいんです…！』

｢……｣

『降谷さん！』


片手でギュッと傘を握りしめる。

雨が音を立てる中、絞り出すようにその言葉を紡いだ。



『…好きです』

｢……っ｣


降谷さんの顔が更に辛そうに歪む。

それでも私は無我夢中で続けた。


『降谷さんが好きです。
ずっとずっと好きでした。だから…っ！』

｢……ごめん｣


両手で肩を押されて距離を取られた。

目は合わない。綺麗な水色の瞳に私は映っていない。

雨音がうるさく響き続ける。



｢…俺には同じ言葉を返すことはできない。そんな資格もない｣

『…っそれならそれでもいいです。私は…！』

｢怖いんだ。お前が撃たれた時、心臓が止まるかと思った。またあんなことがあったら…！｣

『そんなのお互い様です！
こんな職についてるんだから当たり前でしょう！？
それでも、怖くても、離れたくないんです…！』


視界が揺れる。涙のせいだ。

溢れてくるそれを気にしないまま私は傘を手放して彼の服の裾を握った。


『そばにいてください…っ』


ただの面倒な大人のわがままだ。

みっともなく喚いて、引き止めて、お互いの気持ちを知ったまま、私たちは全てなかったことにして今も一緒にいる。

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