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073:ライラック ページ28

夜が明けて明るんできた空の下。


『降谷さん!!』


火の届かないところまで来たところで膝をついた彼に駆け寄った。

体はボロボロ。顔はすすだらけ。それでも生きていてくれたことに涙が溢れる。


「A…!」


名前を呼ばれて抱き寄せられる。

私もギュッと抱き締め返したけれど、すぐに離れて立ち上がり、彼を救急車まで運ぼうとした。

火傷も怪我も酷い。早く治療しないと…!

しかし降谷さんは私の手を離さずに見上げた。


「A、聞いて」

『バカ、手当てが先で…』

「今じゃなきゃダメなんだ!」


グイッと引っ張られてまた地面に座らされる。

降谷さんの手が私の頬に触れる。

まっすぐな瞳が私を射抜いた。



「好きだ」


初めて降谷さんからその言葉を聞いた。

1度目は身勝手なワガママで止めてしまった。

聞きたくないと口を塞がせた。

きっと今までずっと、抑えさせてしまっていた。


「Aが好きだ。
これで終わりになんてする気はない。
ずっと、これからも隣にいてほしい」

『……っ』


彼の指が私の唇をなぞる。


「Aが幸せになってヒロが怒ったりするわけないだろ。
もういいから。もう自分を責めたりしなくていいから、ちゃんと言ってくれ。お前はどうなんだ」


そう問うた声は酷くやさしげだった。

唇を噛み締めても涙は止まることなく頬を流れる。

本心を、本当の願いを、口にする資格なんてないと思っていた。

それでも…

私はかすかに震える声で答えた。



『…降谷さんが好きです』

「……」

『本当は…離れたくなんてない。
ずっとずっと、そばにいたいです…っ』


好きだった。

初めて本気で人を好きになった。いつまでも一緒にいたいと思った。私はずっと彼が好きだった。


なんとか言い切った瞬間、唇に柔らかいものが触れた。

キスされていると数秒後に気づいて、黙って目を閉じる。


お互いが離れた時、彼は幸せそうに笑っていた。

大好きだったその笑顔を、随分久しぶりに目にした気がした。


ようやく昇ってきた朝日が差して彼を照らす。

いつも雨が降っていた。

暗い空の下で泣いた。冷たい雨に打たれながら抱きしめられた。

記憶の降谷さんはいつも雨の中にいた。


雨が嫌いだと思ったことはない。

でも、それでも。


お日様の光に輝く彼の瞳はこんなにも綺麗なのだと、私はその時初めて知ったのだった。

epilogue 1:ヒマワリ→←072:カーネーション



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設定タグ:名探偵コナン , 降谷零 , 安室透   
作品ジャンル:恋愛
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びびか(プロフ) - この作品の作り込みが凄すぎて本当に好きです。。素敵な作品に出会えて良かったです!ありがとうございました! (2023年3月27日 20時) (レス) @page32 id: b527a1d6e3 (このIDを非表示/違反報告)
わか - 想像するだけでこっちが照れてくる (2021年12月7日 15時) (レス) @page30 id: 9e519c38d5 (このIDを非表示/違反報告)
よる - ほぉ…これが降谷さんとの至高の領域だな???ちょっと最上級の語彙力調達してきますね?手持ちの語彙じゃこの素晴らしさは語れないので!!!! (2021年4月30日 23時) (レス) id: 6e0ab3a00d (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - あむむさん» 完結してからしばらく経ってるのに見つけてくれてありがとうございます…!!そんなに褒めて頂けるなんて嬉しすぎて私の心臓が取れます…!25機も消失してご無事ですか!?笑 最後まで読んで下さりありがとうございました!! (2018年11月9日 17時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
あむむ - 初めまして。どうにもこうにも我慢出来なくてコメント失礼します!泣きましたキュンキュンしました心臓取れました辛すぎましたその文章力に脱帽しました!25機くらいは消滅しました…!完結おめでとうございます。お疲れ様でした! (2018年11月8日 21時) (レス) id: eaf01be664 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:立夏 | 作成日時:2018年9月21日 21時

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