降谷さんが狂犬と付き合い始めたらしい。【降谷零/安室透】

4話 ページ5

Aside


前にも後ろにも車はない。

ただひたすらまっすぐ続く海沿いの一本道。


窓を開けて少し顔を出す。

涼しい海風が当たって気持ちがいい。

なびく髪を抑えながら、息を吸いこんだ。


海の匂いだ。ずっと昔、いつもこの中を走っていた。

ちょうどこの季節、毎日砂浜で遊んで、毎日みんなで泳いでいた。

懐かしい空気が胸の中に広がって、涙が出そうになる。

それを堪えて、頭を中に引っ込めてから隣の降谷さんに話しかけた。



『潮の香りがしますね！』

｢そうだな｣

『お魚食べたくなりますね！』

｢あー、いいなそれ。なんか食べて帰るか｣

『ほんとですか！？あ、桜エビのかき揚げとか美味しいですよ！！』



私の生まれた町はさびれた港町。

東都からそこそこ距離があるものの、降谷さんの素晴らしいドラテクにより思ったより早く着いた。

この町にいた時も、組織にいた時も、東都から実家なんてすごく遠いと思っていた。

到底行けっこない場所だと。

でも来てみれば全然そんなことはない。

幼い頃、帰りたいと願い続けていた場所は、想像よりずっと簡単に、あっけなく来れてしまった。



白の…えーと、この車なんて名前だっけ。007的な感じの…うん！車から降りて、小さく伸びをした。

そして蛇行する砂利道を歩く。

少し歩いた先に、自分の過去の苗字が刻み込まれた灰色の石が見えた。

花を差して、墓石を洗って、お線香に火をつける。

煙が揺れる前にしゃがんで手を合わせ、目を瞑った。



お父さん、お母さん。

来るのが遅くなってごめんなさい

あの日、川へ遊びに行って、そのまま今日まで１度も帰ってこれなくてごめんなさい。

こんな親不孝な娘で、本当にごめんなさい。


もっと強かったら、もっと早く２人に会えたかもしれないのに。

もう１度、抱きしめてもらえたかもしれないのに。


これからもきっと頻繁には来れない。

ようやく会いに来てそれっきりだなんて、怒っちゃうかな。


でも、私は大好きな人の隣で、夢みたいな日々を送っています。

ずっと憧れてた警察官になれたんだよ。

いけないことする人達を毎日とっ捕まえてるの。

嘘じゃなくて、本当に毎日笑顔で暮らしてる。


実を言うと…もう、二人の声も覚えていない。

でもこの町で育った日々のことはずっと覚えてる。

キラキラした海と、お父さんとお母さんの優しさは、きっといつまでも忘れないから。



ゆっくりと目を開ける。

ポン、と降谷さんの手が頭に乗せられた。

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