降谷さんが狂犬を飼い始めたらしい。【降谷零/安室透】

20.赤褐色 ページ22

｢降谷さん｣

その声と共に、ドサッと書類がデスクに置かれた。


｢例の宗教団体の資料です｣


そう言った風見を一瞬見て、書類の束を捲る。

あぁ…組織との繋がりの疑いがあったところか…

組織が壊滅して、必然的にその宗教団体も弱体化して、叩くなら今だろうと最近探っていたのだ。



｢わかった。今日中に見ておく｣

｢はい。それと潜入なんですが…誰に行かせましょうか｣

｢あー…若い人しか受け入れないんだったな｣

｢はい｣


風見が微妙な顔をして頷いた。

そうなのだ。この団体は幹部以外はほとんど20代半ばまでで構成されている。

となるとこちらも潜入させるのはその年齢の警察官に絞られてくる。

どこも忙しいからなぁ…若くて手の空いてる奴なんて………あ。



｢犬飼でいいだろ｣

｢え…？犬飼ですか…？｣


あのアホに潜入捜査はないでしょうと、隠さず顔に出す風見。

あまりにも露骨な声に思わず小さく笑った。


｢あのチビなら向こうも警戒しないだろうし、万が一バレて囲まれても問題ないだろう｣

｢はぁ…しかし…｣

｢それに、猫被るくらいならあいつも出来るからな｣

｢え｣


信じてなさげな風見を置いて、コピー機を前に苦戦しているアホ犬を呼んだ。


｢犬飼！｣

『わん！』

パッと顔を上げて尻尾を振りながら駆けてきたAは、笑顔で俺の言葉を待つ。

…こいつ最近更に犬感が増してきてないか？



｢演技テストだ。風見に対して猫被れ｣

『え！？なにをいきなり』

｢スタート｣

『初めまして風見さん。犬飼Aと申します』


急に背筋を伸ばして年相応の微笑みを浮かべたAに、風見が目を丸くした。

…そうなるよな。普段との差がありすぎる。

彼は差し出された手をまじまじと見つめ、一言。


｢ふ、降谷さん…いつからこんな大人しい犬を…！？｣

｢本当にな｣

『ふふ、酷いですねお二人とも』


ポンと頭に手を乗せると、Aはすぐに力を抜く。

一気に雰囲気が幼くなった。うん、いけるな。



｢犬飼、お前来週から宗教団体で潜入調査な｣

『え、潜入！？めんどく』

｢あ？｣

『喜んで！！』

｢っていってもあくまで微調整だし、そんな重要な任務でもないから｣


それを聞いてあからさまにほっとするA。

にしても来週からか…



｢犬飼｣

『はい？』

まだ何か、と首を傾げた彼女を見ずに告げた。


｢この前約束してた映画、今夜行くから仕事終わらせとけよ｣

『ええ！？！？？』

｢アホ、声がでかい｣

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