可愛くないキミの落とし方 ２【降谷零/安室透】

後日談9 ページ35

『零は、いつも、自分の体、気にしなさすぎ』

｢…はい｣


しゃくりあげながら言うAに頷く。

ここまで素直なAは流石に初めてだ。


少し前までは１度も見たことがなかったのに、最近はよくAの涙を見るなぁとふと思った。

意地っ張りな割に打たれ弱いことは知ってたけど、本当は思ってたよりずっと泣き虫なのかもしれない。

なんにせよ、あの日まで泣くのを我慢し続けていたのは相当きつかっただろう。



｢A、あんまり目こするなよ｣

『うぅー』


唸るAの手首を掴んで目元から離す。

真っ赤になった顔を、素直に可愛いと思った。



『……降谷零』

｢ん？｣


Aは久しぶりにフルネームで俺を呼び、少し赤い目で見あげた。

じーっとこっちを見つめるだけで何も言わないので、なに？と続きを促す。

するとまた瞳を涙で揺らして、キュッと眉を寄せた。



『もう、怪我…しないで』

｢ええ…｣


それはちょっと約束しかねるな…

頷かない俺に、Aの眉がより一層寄る。

そんな目をされても怪我しないの縛りはきつすぎる。

しばらく沈黙が続き、やがてAがもう１度口を開いた。



『怪我は、許してあげる、から、』

｢うん｣

『…死なないで』



その言葉にギクリと固まった。

…多分Aは、俺が思っているよりずっと怖がりで、臆病で、慎重で。

わかっていたつもりだった。けれどこいつがそれを隠すのがうますぎるから。

口にしてはならないと誰よりも重く自分に枷をつけているから。

だからいつも、なにも言ってやれなかった。


｢……うん、わかってる｣


頷いて抱き締める。

誰かが死ぬたび隠すのがうまくなるこいつの本音を聞けたのだ。

もしかしたら明日になったら忘れられてるかもしれない。

それでも今くらい、ちゃんと返事をしなければ。



｢もう何も、お前に失わせたりしないから｣


そのままゆっくり頭を撫でた。

反応がないなと思っていたら、少ししてから規則的な呼吸音が聞こえてきた。


…寝たか。

小さくため息をつく。


うん、これからは何かあったらとりあえず酒を飲ますか甘やかそう。

多分こいつは自分の感情にすら鈍い。

小出しにさせないといつか限界に達しそうだ。


そう心に決めて、Aを抱き上げる。


約束してしまった。これでいよいよ死ねなくなった。

自分らしくない行動に苦笑いしながら、額にキスを落とした。

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