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55話 ページ12

触れ合った額から零の体温が伝わる。

いきなりの優しい声に、何故か泣きそうになった。


「Aがナイフを向けられてるのを見た時、心臓が止まるかと思った…
俺はまた、誰かを失うことになるのかって」


零の声を聞きながら、私は目を開ける。

彼の目はまだ閉じられていて、少し眉の寄せられた顔をじっと眺める。



「頼むからお前だけはどこにもいかないでくれ。
Aにまでいなくなられたら、俺は…!」

『……!』


悲痛に告げられた言葉に息を呑んだ。


それは。

それはずっと、私が零に思っていたことで。

言葉にせずに封じ込めていた想いで。



視界が揺れる。

自分の目に涙が溜まっていることにようやく気づく。

やめろ。泣くな。

泣くのだけは許されない。



零がゆっくりと目を開けた。

これだけの至近距離だ。

潤んだ瞳に気づかないはずもない。



『……A』


零はその名を呼んで、額を離してギュッと私を抱きしめた。

お互いの顔が見えなくなる。

代わりに耳元で、はっきりと囁かれた。



「…A、泣いていいよ」


『……っ』



その言葉に、ぶわっと堰を切ったように涙が溢れ出した。



「今まで我慢させてごめん」


違う。

我慢してたのは私だけじゃない。

みんなが死んで、自分達だけが残されて、泣かなかったのは私だけじゃなかった。



『零だって…!』


必死に堪えながらそう口にすれば、腰に回された腕に更に力を込められる。


「……うん、わかってる」


その声が涙で濡れていることに、気づいてしまった。



あぁ、ダメだ。


思い出に蓋をして、涙をせき止めて。

そうして抑え続けてきた感情が溢れだしてしまった。

もう止められない。


ずっとずっと、泣きたかった。

ずっと、不安に押しつぶされそうだった。


零が怪我をして帰ってくるたび、怖かった。

いつか零までいなくなるんじゃないかって、思わずにはいられなかった。

そんな思いを無視して、バカだなぁなんて笑って流して。


誰かが死んだと聞いても、動こうとする心に鍵をかけて。



『……う、ぁあ…っ』

「……っ、」


ボタボタととめどなく涙は溢れ続ける。

頬を伝う感覚は何年ぶりだろう。


年甲斐もなく大泣きした。泣きじゃくった。

それでも今日は。今日だけは。

許そう、自分を。

自分たちの感情を。


お互いの顔は見えない。

それでも存在を確かめ合うように、ギュッと一層強く抱きしめた。

56話 ▽Dear→←54話 ▽Tears



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設定タグ:名探偵コナン , 降谷零 , 安室透   
作品ジャンル:恋愛
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ひなた(プロフ) - 読ませていただきました!初めてゴリラを好きになれた作品なので感謝しております!そして、少し気になったのが、「緑川」というキャラでおそらく諸伏くんの声優さんと名前がごっちゃになってしまい諸伏くんを緑川と書いたものだと思いますがそこが少し気になりました。 (2022年4月30日 21時) (レス) id: dd9bdc737b (このIDを非表示/違反報告)
りーくん - 待って最後の宣伝のやつ二つとも知ってんだけどwwww (2021年9月1日 21時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 椎名桃乃さん» わー!ありがとうございます…!そんなそんなもったいないお言葉ばかりですがとっても嬉しいです!見つけてくださってありがとうございました!どうぞお暇潰しにでもゆるりと読んで頂けたらと思います!笑 ありがとうございました! (2019年5月26日 18時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
椎名桃乃 - 狂犬ちゃんを読んでぼろっぼろに泣いて、それから此方の作品を見付けて、いい話だなーとほっこりさせて頂きました!立夏さんは文才力が半端ないですね…!他の作品も読んでみたいと思います! (2019年5月24日 21時) (レス) id: 87ecca1cfc (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - ウィンディ-lilac-さん» わぁぁありがとうございます!!とっくに完結した作品なのに見つけて下さって感謝しかありません…!本作は初めて書いた降谷夢なのでとても嬉しいです!狂犬の方まで本当にありがとうございます!これからもいっぱい文字書きますね!! (2018年8月27日 20時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:立夏 | 作成日時:2018年6月10日 21時

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