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54話 ▽Tears ページ11

降り続いていた雨はいつの間にか止んでいて、あたりは静寂で包まれている。

諸々のすべきことを終わらせ零のマンションについたのは、とっくに日付が変わった頃だった。


こんな深夜に出歩く人はなかなかいない。

だから、この恥ずかしい体勢は人に見られなくて済んで。

それだけはよかったと思いながら、私は零に背負われていた。


ヒールが折れたのだ。

替えの靴なんてその場にあるはずもない。

別に裸足で歩くと言ったが、問答無用で色気なく無理矢理担がれた。



さっきから何も言わない零に体を預けながら、私は死のカウントダウンを頭の中で続ける。


…怒ってるよなぁ、やっぱり。

しかも尋常じゃないくらい。

車内で嫌というほどそれが伝わってきて、意味もなく息を止めていた。いや吸ったけど。


部屋に入ったらしこたま怒られそうだ。

想像するだけで鳥肌が立った。



しかし、時間というのは残酷に過ぎるもので。

一定のテンポを刻んでいた零の足が止まる。

荒々しく扉が開かれる。

玄関を通り過ぎてリビングに入ったところで、零は私を床に下ろした。



「………で、なにか言い訳は?」


ようやく発せられた声は驚くほど低い。

こっちを見ない零に、私は静かに返す。


『…ありません』


あるわけがない。

そしてもう一言、わかりきったことを聞いてしまった。



『……怒ってる?』


「当たり前だろ!!!」



いきなり放たれた大きな声にビクリと肩が跳ねた。

零はこのとき初めて私を見て、近所迷惑なんてお構い無しにそのまま続ける。



「なんであんな簡単なトラップに引っかかった!?
なんで勝手な判断で単独で動いた!?
あのとき俺が間に合ってなかったら、お前ただじゃすまなかったぞ!」

『……』



返す言葉もない。

わかってる。

零が絡んだだけであそこまで取り乱すなんて公安失格だ。


ギュッと奥歯を噛んで俯いて、零の声を聞く。

何も言わない私に焦れたのか、零が私の方へ歩いてきた。

それに驚いて思わず顔を上げる。



その先にあったのは、至近距離にまで迫った目を閉じた零の顔だった。


反射的に後ずさろうとしたが肩を掴まれて叶わない。

え、まさか頭突き!?

そう思って固く目を瞑り身構える。


しかし鳴ったのはコツンという軽い音だけで、零は私の額に自分の額を重ねた。



「無事で良かった……っ」

『……れ、い…』



その声は酷く優しくて、私の心にじわりと広がった。

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設定タグ:名探偵コナン , 降谷零 , 安室透   
作品ジャンル:恋愛
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ひなた(プロフ) - 読ませていただきました!初めてゴリラを好きになれた作品なので感謝しております!そして、少し気になったのが、「緑川」というキャラでおそらく諸伏くんの声優さんと名前がごっちゃになってしまい諸伏くんを緑川と書いたものだと思いますがそこが少し気になりました。 (2022年4月30日 21時) (レス) id: dd9bdc737b (このIDを非表示/違反報告)
りーくん - 待って最後の宣伝のやつ二つとも知ってんだけどwwww (2021年9月1日 21時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 椎名桃乃さん» わー!ありがとうございます…!そんなそんなもったいないお言葉ばかりですがとっても嬉しいです!見つけてくださってありがとうございました!どうぞお暇潰しにでもゆるりと読んで頂けたらと思います!笑 ありがとうございました! (2019年5月26日 18時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
椎名桃乃 - 狂犬ちゃんを読んでぼろっぼろに泣いて、それから此方の作品を見付けて、いい話だなーとほっこりさせて頂きました!立夏さんは文才力が半端ないですね…!他の作品も読んでみたいと思います! (2019年5月24日 21時) (レス) id: 87ecca1cfc (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - ウィンディ-lilac-さん» わぁぁありがとうございます!!とっくに完結した作品なのに見つけて下さって感謝しかありません…!本作は初めて書いた降谷夢なのでとても嬉しいです!狂犬の方まで本当にありがとうございます!これからもいっぱい文字書きますね!! (2018年8月27日 20時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:立夏 | 作成日時:2018年6月10日 21時

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