57.灰色 ページ17
『…随分長い間、気負わせてしまっていたようですね。ごめんなさい』
「そういう話をしてるんじゃなくて…!」
思わず詰め寄りそうになって、ハッとして足を止めた。
Aの手が震えている。
なににそんなに怯えているのかわからなくて、動けずにじっと見つめる。
Aは浅く呼吸を繰り返しながら、俯いて言葉を紡ぐ。
『組織に連れてこられた時、私は目が覚めてすぐに逃げようとしたんです。
でも当然、小学生如きに逃げられるわけもなくて。すぐ捕まって。』
思い出したくない過去を無理やり引きずり出すような表情に、どうすればいいかもわからずただ黙って聞く。
『連れ戻された先に待ってたのはお仕置きでした。
耐えられないくらい痛くて辛いことばかりの』
息を呑んだ。
幸せに暮らしていたところをいきなり連れ去られた少女が、親もいない場所でそんな仕打ちにあうなんて、どれだけ辛かったか想像もつかない。
『でもあんなところ、どうにかして逃げ出したくて。
何度も脱出を試みたんです。
その度に捕まって、痛い目にあって。
嫌だと口にするたび、反抗するたび、痛めつけられて。
けれどポーラーは、言うことを聞いていればとても優しいんです。いい子にしていれば甘やかしてくれるんです。
もういつの間にか、逃げようだなんて思うことすら出来なくなっていました』
Aが手を取らないわけがやっとわかってきた。
幼い頃の記憶が、逆らってはならないという思考を体に刻み込む。
半ば洗脳のような刷り込みに、今もずっと縛られている。
あと一歩が、踏み出せないほどに。
『弱くてごめんなさい、降谷さん』
Aが顔を上げた。
もう手は震えていない。
へらりと不器用な笑いを浮かべた彼女が、その言葉を口にする。
『抗おうとしても、もう体が動いてくれないんです』
「……っ!A、」
次の瞬間、突如大きな揺れが建物を襲った。
伸ばした手が空を切る。
一瞬地震かと思ったが、違う。建物だけが揺れている。
窓のない部屋だから外の様子は見えない。
何が起きている…!?
体のバランスが崩れる中でそんなことを考えていたせいで、一瞬反応が遅れた。
鋭い蹴りが鼻先を掠める。
目の前には、凍りそうなほど冷たい目をしたAがいた。
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立夏(プロフ) - あかね。さん» 素敵なお言葉になんてお返しすればいいのかわからないくらい今すごい泣きそうになってます、本当にありがとうございます!実は私も当作品が1番気に入ってまして、今でも楽しんでくださる方がいるなんてとっても嬉しいです!長い間お付き合いありがとうございます!! (2020年4月23日 0時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
あかね。(プロフ) - 何回目か分かりませんが、また読み直してしまいました。立夏さんのお話ほんと好きで、中でも狂犬が1番好きで、犬飼ちゃんと降谷さんがやっと掴んだ幸せに毎回涙します。素敵な作品をいつもありがとうございます! (2020年4月22日 13時) (レス) id: 639a2702b7 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - いるかさん» わぁぁ完結して随分立っているのに見つけてくださってありがとうございます…!本当に嬉しいです!最後まで読んで下さってありがとうございました!! (2019年4月25日 0時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
いるか(プロフ) - 素敵すぎる小説すぎて涙が止まりませんでした。これからも、応援してます(´;Д;`) (2019年4月24日 16時) (レス) id: 8c81b6610f (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - ウツボカズラさん» 伏線褒めてもらえるなんて嬉しいです…!どちらも夢が叶ったハッピーエンドを無事お届け出来て安心しております笑 最後まで本当にありがとうございました!!これからも頑張ります! (2018年8月11日 1時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2018年8月2日 19時