降谷さんが狂犬を飼い始めたらしい。２【降谷零/安室透】

58.黒色 ページ18

｢くそ…っ！｣


最悪だ。甘く見すぎてた。

すぐに距離を取って風見に通信を繋ぐ。


｢失敗した！今すぐ突入しろ！｣

｢降谷さん！それが…今の揺れと共に全方位で多数のシャッターが降りてきて入り口を塞がれました！
すぐに入るのは難しい状況です！｣

｢はぁ！？｣


このボロビルのどこにそんな設備が、と言いかけて止まる。

バーボンを憎むやつらが集まってるんだ。

それくらい、すぐやってのけるメンツが揃ってるはずだ。

狙いは俺一人。完全に相手の都合のいい状況に追い込まれた。



『よそ見してていいんですか！？』

｢……っ｣


横から飛んできた蹴りを腕で受け止める。

想像以上の重さに腕が痺れる。

Aが拳銃を握ったのが見えて、咄嗟に手で払い飛ばした。

それによって縮まった間合いのまま、容赦ない膝蹴りが腹に直撃した。


｢うぐ…っ｣



こいつっ…！公安にいた時は手抜いてやがったな…！

その時でさえバケモノじみてたのに、まるで桁違いだ。

元の人並外れた才能に加えて、15年間の組織の下での訓練。

普通なはずがない。本気のシャトーなんて、そこら辺のやつと訳が違う。


こっちからは出来るだけ攻撃したくないなんて呑気なことは言ってられない。

そう思って応戦してるはずなのに、すばしっこすぎてほとんどまともに当たらない。


Aがハイヒールのままコンクリートの壁を蹴る。

スカートが翻ったのが見えて、体を捻って避けたものの頬に痛みが走った。

着地した靴の先に刃物が仕込んであるのが目に入る。

冗談じゃねえ。油断してたらガチで死ぬ…！



そう思った刹那、どこからか黒いものが飛んできて、カンッと足元で跳ねた。


…ッ手榴弾！？

転がったそれを見て反射的に地面を蹴ってその場を離れる。

しかしAが迷うことなく俺の方へ跳んだのが見えて、ようやく気づいた。


トラップか…っ！

気づいた時にはもう遅い。

一瞬の隙を突かれて、手錠で配管に繋がれた。

手榴弾は爆発することなく転がったまま。

それが飛んできた方向に目を向ければ、黒いライダースーツを身に纏った黒髪の女がいた。



｢よくやったわね、シャトー｣


ポーラーだ。

Aが微笑んで服の埃を払う。

そして砂糖をドロドロに煮詰めたような甘ったるい声で答えた。


『ママ』


Aは、そう言って俺の横をすり抜けた。

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