51.白花色 ページ11
シャトーは、どこにでもいる普通の少女だった。
生まれも育ちも東都から離れた静かな田舎町。
一般家庭に生まれて、そのまますくすく育ったごく普通の子。
親の経歴にもなにも黒いところはなく、もちろんシャトー自身にもなにもない。
町のちびっ子マラソンでバカげたタイムでぶっちぎりの1位を取ってたりとか、その程度。
喧嘩っぱやくて男子にも余裕で勝ててしまうとか、ただそれだけの女の子。
多分、その時はおまわりさんに憧れてるだけの少女だったのだ。
事件が起きたのは、ある初夏の日だった。
その日、組織の下っ端がたまたまシャトーの住む街を訪れていた。
あの真っ黒組織なら日常的に行われていたような、裏切り者の粛清。
裏切り者といっても大層な構成員ではなく、組織からすれば単にミスった男を始末しに来ただけだったのだろう。
その現場を、あの子は、純粋そのものだった小さな女の子は、目撃してしまった。
人が人を殺そうとしている場面を見て動ける子供なんてそういない。
走って逃げることだけでもできたら重畳だ。
けれどその時、彼女の取った行動は異質そのものだった。
殺されかけていた男をかばった。
組織が送った下っ端に立ち向かった。
まさか自分が子供相手に不覚を取るなどとは思ってもいなかった男の虚をついて、刃物を奪って頸動脈を切った。
多分その事件のせいで、組織に目をつけられた。
組織というか、恐らくポーラーに。
はっきり言ってこの子は異様だ。
経歴は普通でも、才能は全く普通じゃない。
殺人の才能だなんておかしな話だが、それでもそうとしか言いようがない。
全く躊躇わず確実に人が死ぬところを狙ったのだ。たった9歳の少女が。
これを異様だと言わずになんというのだ。
そんな危なっかしい才能を、放っておくわけがない。
シャトーはその事件の少し後で、姿を消した。
いや、死んだのだ。記録上は。
川に流されて溺死。
どう見ても不慮の事故。
しかしそれは組織が用意したカモフラージュ。
本当の彼女はポーラーに拉致られて、組織の戦闘員として育てられた。
いきなり連れ去られ、わけもわからないまま殺しのやり方を教えられ、いつの間にかコードネームまで与えられた。
ポーラーの子だなんてただのデマだ。
平々凡々に育ってきた女の子が、愛してくれる家族と引き離されて、望んでいたことと正反対のことをやらされて。
ずっと1人で、耐えていた。
これが、あの小さな女の子の過去だ。
あの子が仮面の奥で抱え込んでいたものだ。
──俺があの日、見つけてあげられなかったものだ。
2311人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
立夏(プロフ) - あかね。さん» 素敵なお言葉になんてお返しすればいいのかわからないくらい今すごい泣きそうになってます、本当にありがとうございます!実は私も当作品が1番気に入ってまして、今でも楽しんでくださる方がいるなんてとっても嬉しいです!長い間お付き合いありがとうございます!! (2020年4月23日 0時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
あかね。(プロフ) - 何回目か分かりませんが、また読み直してしまいました。立夏さんのお話ほんと好きで、中でも狂犬が1番好きで、犬飼ちゃんと降谷さんがやっと掴んだ幸せに毎回涙します。素敵な作品をいつもありがとうございます! (2020年4月22日 13時) (レス) id: 639a2702b7 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - いるかさん» わぁぁ完結して随分立っているのに見つけてくださってありがとうございます…!本当に嬉しいです!最後まで読んで下さってありがとうございました!! (2019年4月25日 0時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
いるか(プロフ) - 素敵すぎる小説すぎて涙が止まりませんでした。これからも、応援してます(´;Д;`) (2019年4月24日 16時) (レス) id: 8c81b6610f (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - ウツボカズラさん» 伏線褒めてもらえるなんて嬉しいです…!どちらも夢が叶ったハッピーエンドを無事お届け出来て安心しております笑 最後まで本当にありがとうございました!!これからも頑張ります! (2018年8月11日 1時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:立夏 | 作成日時:2018年8月2日 19時