72 ページ25
あれは11月の中頃のことだった。
いきなりの本家からの呼び出し。伝えることがあるから来なさいとの叔母様からのお達し。
正直嫌な予感しかしなかったが、無視するわけにもいかない。
私は重い足を引きずり、久しぶりに小日向邸へ赴いたのだ。
そして、その嫌な予感は見事に的中してしまった。
叔母様から用件を聞かされた時、私は本気で耳を疑った。
『え？今なんて…』
｢湯川グループの御曹司よ。年は30。
来月末に顔合わせはするけど、話はほとんど固まってるから卒業したらすぐに入籍になると思うわ｣
『にゅ、入籍…？』
は…？一体なにを…私が？全く知らない人と結婚させられるの？
言葉の意味は理解出来ても全くもって飲み込めない。現実についていけない。
冗談でしょ？そんな話初めて聞かされた。なんでこんな急に…！
混乱する頭の中で、浮かんだのは当然大好きなあの人のことだ。ハニーレモンの髪がよぎった瞬間、口は勝手に動いていた。
『待ってください！』
｢なに？｣
『わ、わたし…好きな人が…っ！』
勢いに任せてそんな言葉を発する。
叔母様は少し意外そうに目を見開いた。
そりゃそうだろう。彼女からすれば、私は恋なんかとは無縁そうな無愛想な娘だ。
しばらく口を閉ざしていた彼女は、しかしやがて瞳を鋭くして言った。
｢付き合ってるの？｣
『え…？』
｢交際関係にあるのかって聞いてるの｣
『あ…い、いや…それはまだ…』
｢そう。なら諦めなさい｣
『な…っ！』
冷たい声に顔を歪める。
でもダメだ、そんな男と結婚するなんてありえない。
付き合ってはないけれど、せっかく両思いになれたのに…！
『叔母様！私は…！』
｢まさかとは思うけど、自分に拒否権があると思ってないでしょうね｣
『…っ！』
｢１番条件のいい人を選んだわよ。相手方は大学までなら行っていいとも言ってくれてるわ。まだなにか文句があるの？｣
『文句って、だって…！』
｢いい加減にして。あなたは小日向家の人間でしょう｣
…っ今までそんな風に扱ったことはなかったくせに…！
どんな扱いを受けようとも引き取ってくれたことなは感謝してきた。言うことも聞いてきた。
それでも、これだけはどうしても従えない。
そう思ったところで叔母様は容赦なく私に告げる。
｢決定事項よ。卒業までに部屋を片付けておきなさい｣
『そ、んな…っ』
膝の上で固く拳を握った。
叔母様は私を残し、さっさと部屋から出ていってしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1887人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
羽(プロフ) - とっっても良い話でした！！最後にお話を更新されてからかなり時間が経っているのでもうログインされていないかもしれませんが、どうしても伝えたくてコメントさせていただきました…！素敵なお話を書いていただきありがとうございました！ (7月8日 22時) (
レス) @page38 id: 9862219e48 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 2周目です！！本当にいい話、、大好きです。書いてくださり、本当ありがとうございました。 (2022年2月4日 23時) (レス) id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
m - 立夏さんのお話、内容がししっかりしてて面白くて…他にも作品書いてるのかなって思ったら過去に読んだ事ある作品ばかりですごい驚きました！全部すごい好きな作品だったので…Twitterのフォロー失礼致します！ (2021年8月31日 12時) (レス) id: a52571fa0a (このIDを非表示/違反報告)
りー - 叔母様いい人や！姉さんの事好きだったんやな(´；ω；`) (2021年8月22日 22時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 推しが尊いマンさん» わ〜！ありがとうございます！後半すごく悩みながら書いていたので本当に嬉しいです！最後までお付き合い頂きありがとうございました！！ (2021年1月20日 2時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：立夏
| 作成日時：2019年4月5日 20時
