61 ページ13
「その様子だと私のことは知っているようね」
薄く笑ってそう言った彼女に、私は動揺を隠しながら答えた。
『…クリス・ヴィンヤードさんですよね、女優の』
「あら。間違ってないけど、あくまでシラを切るつもりね」
当然会うのは初めてだけど、表舞台にも立つ彼女の顔は知っている。
間違いない。私を攫ってきたのは黒の組織だ。
心の中で舌打ちをした。なんでよりにもよってこのタイミングで…!
彼女は綺麗な顔を私に近づけ、顎を上げさせた。
「あなたは桜小路Aね?」
『…小日向Aです』
「鈍いわね。桜小路の娘か聞いてるのよ」
『……』
…聞かなくてもわかってるくせに。
桜小路は旧姓だ。私が小日向に引き取られる前の、つまり両親の苗字だ。
私が組織の抹消者リストの中に両親の名前を見つけたことは当然バレているのだろう。
小さく息をついて負けないように視線を返した。
『父と母を殺したのはあなたですか』
「私じゃないわよ、そのへんの下っ端じゃない?」
『…なんのために殺したんですか』
「深入りしすぎたのよ。知ってはいけないことを知った者は消されるのがこっちの世界の常識よ」
予想通りの答えに沈黙で返す。
ベルモットはさして気にも留めずに続ける。
「あなた、自分の両親がなにをしてたかはわかってるのね?」
『…ええ、一応は』
ちゃんと知っている。
公安は私に教えようとしなかったけど、自力で調べた。
理由もわからずに公安の保護下にいることが腑に落ちていなかったからだ。
結果、想像以上の凄まじさには流石に驚いたが、なんとなく納得はしたし、自分は彼らの娘だと確信することもできた。
「潰すなら底辺の組織だけにしとけばよかったのにね。私たちを敵に回すだなんて」
そんなことをするから死ぬのよ、と随分冷たい声が響いた。
挑発されてるのかもしれないけれど、怒りは特に湧かなかった。
相手のペースには乗らない。えらく多い米花町の探偵さん達に身をもって教えられたことだ。
『…それで、何の用ですか?』
いい加減本題に入ってもいい頃だろう。
相手の目的を聞かないと埒が明かない。
『両親について私が知ってることはあなた達の持つ情報よりも少ないと思いますよ。記憶障害のせいでなにも覚えていないので』
先にそう伝えれば、ベルモットは軽く笑う。
「記憶障害ね…」
彼女は、笑みを浮かべたままで私を見下ろして言った。
「本当にそうかしら?」
『……え?』
1882人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
羽(プロフ) - とっっても良い話でした!!最後にお話を更新されてからかなり時間が経っているのでもうログインされていないかもしれませんが、どうしても伝えたくてコメントさせていただきました…!素敵なお話を書いていただきありがとうございました! (7月8日 22時) (レス) @page38 id: 9862219e48 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 2周目です!!本当にいい話、、大好きです。書いてくださり、本当ありがとうございました。 (2022年2月4日 23時) (レス) id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
m - 立夏さんのお話、内容がししっかりしてて面白くて…他にも作品書いてるのかなって思ったら過去に読んだ事ある作品ばかりですごい驚きました!全部すごい好きな作品だったので…Twitterのフォロー失礼致します! (2021年8月31日 12時) (レス) id: a52571fa0a (このIDを非表示/違反報告)
りー - 叔母様いい人や!姉さんの事好きだったんやな(´;ω;`) (2021年8月22日 22時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 推しが尊いマンさん» わ〜!ありがとうございます!後半すごく悩みながら書いていたので本当に嬉しいです!最後までお付き合い頂きありがとうございました!! (2021年1月20日 2時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:立夏 | 作成日時:2019年4月5日 20時