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次の日は本屋の仕事も入っていたため、結局自宅に帰れたのは夜になってからだった。
予想はしてたけど、やっぱり彼は家にはいない。
プライベートでなにかあったからといって仕事は休めるものではないし、きっと今夜もそんなに早くは帰ってこないだろう。
そう思って静かな家の中を見渡す。
いつもはしっかりしている彼が食器や洗濯物をそのままにしているのが目に入って、ズキリと心臓が痛んだ。
ひとまずそれらを片付けてため息をつく。
零さん、家でインスタント麺とか絶対食べなかったのになぁ…
放置されたゴミを捨てたちょうどその時、いきなり玄関の方からドアが開けられる音がした。
え、もう帰ってきた…!?
思ってたよりもずっと早いんだけど!?
慌てて自分の頬をパチンと叩いた。
しっかりしろ。大丈夫、できる。ちゃんと笑える。
決着は自分の中で付けた。
玄関に置かれた私の靴を見たからか、彼がバタバタと廊下を駆けてくる音がする。
リビングのドアを開けた彼を振り返り、笑顔で言った。
『おかえりなさい、早かったですね』
「……っ」
いけた、と思った。今度は目を逸らさなかった。揺らしもしなかった。完璧に笑えた自信があった。
それなのに、彼はクシャリと顔を歪める。
本当に辛そうなその表情に、心臓をギュッと掴まれた気分になった。
なんで、そんな顔……
笑顔を崩しそうになったけれど、必死に堪える。
彼はそんな私に詰め寄り、私の二の腕を強く掴んだ。
「なんで今になってお前のそんな取り繕った顔を見ないといけないんだ!!」
『…ぇ……』
取り繕った顔…?
嘘でしょ、まさかバレた…?完璧だと思ったのに。
目を丸くした私に、彼は悲痛な表情で続ける。
「わからないわけないだろ!
俺が何年その表情を見てきたと思ってるんだ!」
『……っ』
「もう二度とそんな顔見たくないって、そんな顔させないって、思ってたのに…!」
『れい、さん…』
……あぁ、そうか。もう慣れきったこの笑い方。随分久しぶりに作ったけれど、組織が壊滅する前の協力者時代の私と同じじゃないか。
私たちの間にあったことをなかったことにして、自分の気持ちをひた隠しにして、いつも通りに振舞って。
それが続いて、終わりを迎えるまで4年以上。
バレないわけがない。私のこれは、きっと彼にとって何よりも見たくなかった表情のはずだ。
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なでぃあ - すみません💦立夏さんの作品一覧の中でパスワード保護がかかっている作品を読みたいのですがパスワードを教えて貰えないでしょうか? (2023年1月10日 21時) (レス) id: b7c646722c (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - over the rainさん» ありがとうございます!!私の文章で幸せになって頂けたなんて私の方が幸せです!笑 ありがとうございました!! (2020年3月14日 22時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
over the rain - 話の構成も文章の書きかたも素敵で、幸せな気分です!これが神だ。嬉しくて泣けました(マジ)応援してます! (2020年3月5日 10時) (レス) id: a4bab14be1 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - なのなの-VIIさん» わぁ〜!とってもご無沙汰な更新でしたが読んで頂けるなんてすごく嬉しいです!!ありがとうございます!!私もはっぴー満点で眠れます!笑 (2020年2月9日 0時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
なのなの-VII(プロフ) - 更新ありがとうございます! めっちゃ嬉しいです! おかげで幸せな気分で寝れます! (2020年2月8日 23時) (レス) id: 3d69e77dfd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2018年11月18日 21時