顔が良ければ全て良しだって未だに思ってるだろ！！【降谷零/安室透】

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｢はぁ！？浮気された！？｣


キッチンで紅茶を淹れてくれていた丸眼鏡の彼女は、そんな声と共に振り返る。

橘境子先生。そう、いつぞやのサミットの時の弁護士さんだ。

ソファに座っていた私は彼女に軽く笑って返した。


『浮気じゃないですよ、ただのお仕事です』

｢なんだ、慰謝料ぶんどってやろうと思ったのに｣

『さすが姐さん逞しすぎる』

｢誰が姐さんよ｣


彼女はティーカップを私に手渡してため息をつく。

冷えた手のひらに温もりが伝わって、少し心が落ち着いた。


｢仕事ねぇ…相変わらず公安警察は大変ね。
プロポーズまでする必要あるの？｣

『婚約まで持っていけば有利にことが進む案件は少なくないんですよ。
別にプロポーズしてるとこを見るのは今日が初めてってわけじゃないです』

｢そうなの？｣


丸眼鏡の向こうで目を瞬かせる境子先生に頷く。

そう、初めてではないのだ。私が公安を辞める前に何度か目にした。

その時は特になんとも思ってなかった。他のハニートラップと同様に捉えていた。

それなのに今回はそうではなかったのは、きっとあの人とこんな関係になったからで。


『やっぱりなんにも聞かされてないとこからいきなりあの現場を見るのはきつかったなぁ…
ただのハニトラならサラッと流せたと思うんですけど、プロポーズとなると…』


その立ち位置だけは私だけのものなのに、なんて真っ黒な感情が胸の内に巣食ってしまって。


｢…当然よ、そんなの｣


そう言ってくれた境子先生は、ミルクティーを一口飲んでソーサーに置いた。


｢それで、これからどうするの？
うちにいるのは構わないけど、いつまでもこんな調子にはいかないでしょう｣

『…はい、明日には帰ります』

｢ちゃんと話すの？｣

『いえ…１日で自分の中で全部ケリをつけて、今度こそあの人の前で完璧に笑えるようにします』

｢……｣

『あの人はなにも悪くないんです。だからもう、このことについて話すことはありません。全部なかったことにします』


境子先生がなにかを言いたそうに口を開く。

けれど結局、言葉はなにも放たれず、また口を閉じる。

彼女は目を伏せ、静かに私に尋ねた。


｢…それでいいのね？｣

『はい。私がそうしたいんです』

｢…そう｣


彼女は私から目をそらす。

｢本当に似たもの夫婦ね｣

その言葉の意味はよくわからなかったけど、私は黙って紅茶を口に含んだ。

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