スキになったら負け！【Hirano.S】 (ページ4)

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episode4 ページ4

＿＿＿＿1年前、冬

手は休むことなくキーボードを叩いていた。

横目で壁の時計に目をやると
もう夜の9時を回っている。

定時は17:30のはずなのに。

なんでこんなことしてるのかって、
昼に取引先に送ったデータに不備があり
先方が激怒、
直ぐさま菓子折り持って謝罪に出向き
今日中に修正データの再送を要求されたからだ。

なんとか全て終わった時には
社内は私のデスクを照らすライト以外、１つも点いていなくて

自分のミスでこうなったんだけど
疲れも相まってか
ごちゃついた心は、胸の奥をキューっとして

悔しさなのか、涙が頰を伝っていた。

涙を拭ってくれる人なんていない、
自分の親指でピッと涙を払うと

「……飲も」

普段はあまり飲まないけど、
今日は浴びるほど飲んでやる！と意気込んで
顔なじみがやっているお店を訪ねたが

「なんで……」

閉ざされたシャッターに掲げられた
「一身上の都合で、閉店させて頂きます。」
の張り紙。

心の拠り所さえも奪われた気分で
ふらふらと歩いていると

いつのまにか路地裏へ迷い込んだようで

表通りにあるのとは違う、静かな雰囲気のお店を見つけた。

少し覗けばカウンターが空いているのが見えて

ここでいいや……

気付けばそのお店に足を踏み入れていた。