スキになったら負け！【Hirano.S】 (ページ40)

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episode37 ページ40

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「ただいま〜！！」

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玄関から声がする。

声の調子で今日の仕事がどうだったのか、なんとなくわかるようになってきて

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あっ、今日の仕事は楽しかったんだな。
そういえば今日はメンバー全員集まるって言ってたしなぁ…笑なんて

つい、つられて頬を緩ませてドアの方を向くと

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「Aさん見て！！これ！！これ、あの店やんな？！」

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羽織っていたジャケットを半分脱ぎかけの紫耀くんが
茶色い紙袋をゆらゆらと揺らしてみせる。

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「あっ！！それ！」

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その紙袋は
チョコレートの専門店のもので

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「映画のときお世話になったスタッフさんが辞めちゃうって言ってね、お礼にどーぞってくれたんやけど袋見た瞬間ににやけた〜。」

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なんでそれで紫耀くんがそんなに嬉しそうなのかって……？

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それは、私が紫耀くんとはじめて出逢った日に遡る、、、、

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あの日。

重なる不運のおかげで紫耀くんに出逢えたあの日。

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電車に乗れずに途方に暮れていた見ず知らずの私を
自分の車に乗せてくれた紫耀くんは

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「寒くないですか？暖房好きにしてくださいね。」

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同じく見ず知らずの男の人の車に乗り込んでいるとは思えないくらいに私を安心させてくれて

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「お家どのへんなんですか？駅名言ってもらえれば行きます」

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私が伝えた最寄り駅までスマートに車を走らせた。

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電車ならあっという間の距離も、
車で移動するとなると何度も都心の渋滞にはまって
まだ会話の弾まない静かな時間が、長く長く感じた。

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運転席の彼は
スマホのBluetoothを通じて流れてくる音楽に
余裕そうに小さく鼻歌を歌っていたけど

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さっき出会ったばかりとはいえ、
はたまた年下とはいえ、

そんな無邪気な横顔にもドキドキして

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私は何も喋れなくて窓の外のぼんやり見つめていた。

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そんな時、

「あ」

「ん？」

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車が信号で止まった時、
偶然この紙袋のチョコレート屋さんを見つけて

ネットで見てずっと食べたいと思っていたけど
生活圏外でいまいち場所が分からず終いだったお店だったから

“みつけた！”という感動で

思わず声が出てしまって

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「ん〜？何のお店？」

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運転席の彼まで
こちらに乗り出して窓の外を覗こうとするから

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「ち、ちょこ！」

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思わずへんな声が出た。