41話 ページ47
(伊地知視点)
「すみません家入さん、これ、追加の書類です」
頭を下げて家入さんに書類の束を渡す。
黙って受け取る家入さんは、いつも通りの不健康そうな顔をしていた。
「休みを取る暇なんてないんだ。私も分かってるよ」
私の視線に気が付いた家入さんが、疲れたように頭を掻いた。
「…そんな中、申し訳ないのですが…」
「ああ、呪霊? あっちで寝てるよ」
家入さんの指の先には、カーテンに遮られたベッドがある。
カーテンを少し捲ると、ベッド上には長身の女性が横たわっていた。
「小さい用事以外で私がここを離れることはなかったが、一度もなにも変化なし」
「明日でちょうど一月です。事情を知る呪術師を何名かつけますのでご心配なさらず」
「あの様子じゃ大丈夫だろうけどね」
この呪霊が言ったことを信じるならば、明日以降いつ目覚めてもおかしくはない。
そのため、一応家入さんの護衛として呪霊を見張る呪術師を呼んである。
一度会った時点で分かっているが、この呪霊には普通呪霊が持つ殺意や敵意、害意、または人間という生き物をなんとも思っていないような残忍な態度を一切感じなかった。
そうは言っても呪霊は呪霊。
当人にその気は無くとも、もしかしたら寝ぼけて攻撃してきたりといった可能性は捨てきれない。
そういう可能性がほんの少しでもある以上は、補助監督として、呪術師としてなにもしないわけにはいかない。
体裁や矜持なんてものとは関係なく、我々がすべき対応だ。
それが強すぎて絶対に敵わない相手であっても。
「…では、よろしくお願いします。何かあったらすぐ連絡を」
「ああ。…今日くらいはゆっくり寝たいもんだな」
家入さんは少しだけ開いている窓の外を眺めた。
「急な仕事が入った場合には…」
「いいって、私が一番分かってる。
じゃあ、伊地知も仕事残ってるんだろ? この子のことは私に任せな。仮にも一ヶ月見てきたんだ。今更なんてことない」
「…はい、では」
なるべく音を立てないようにドアを開け、部屋をあとにした。
もし、あの呪霊が起きたときに、家入さんや呪術師の方に危害を加えたら。
それで家入さんになにかあった場合には、私は…
頭を振って、ネガティブな思考を無理矢理中断した。
「はあ…」
本日何度目かのため息を吐いて、次の予定を確認した。
1492人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
翡翠(プロフ) - まるめんさん» ありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しいです (9月9日 16時) (レス) id: dbd7e88ded (このIDを非表示/違反報告)
まるめん - 夢主イメージイラストうますぎません???お話も面白いです (9月9日 15時) (レス) @page19 id: 17d5d6def1 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 茨の谷の第二王子さん» コメントありがとうございますm(_ _)mすみません、その作品は存じ上げないですね…! (2022年4月20日 15時) (レス) id: 5d748230e5 (このIDを非表示/違反報告)
茨の谷の第二王子 - 青龍、玄武、白虎、朱雀って「異世界で神獣にハメられました。」で見たぁ! (2022年4月20日 0時) (レス) @page33 id: d096c6aa19 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - ノアさん» コメントありがとうございますm(_ _)m一日一話がんばります! (2021年12月27日 19時) (レス) id: 5d748230e5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:翡翠 | 作成日時:2021年11月15日 1時