【ツイステ】水鏡に蝶が沈む (ページ4)

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雇用主と部下ページ4

「ふむ。つまり鏡に引きずり込まれたと」
「そうなんです」

VIPルームとやらに案内され、ふかふかしたソファに座ってこれまでの経緯を話すと、アズールが呆れた表情をしてため息をついた。

「貴方、もう少しましな嘘を吐いたらどうなんですか？そんなほら話じゃ、誰も信じませんよ」

嘘じゃないのに……。だけど、いくら説明したところでこの男には通じなさそうだ。私は諦めて、部屋の外への扉を開いた。さっきの鏡のところへ向かう為だ。もしかしたら、もう一度通り抜けて自分の部屋に帰れるかもしれない。

ところが。

「えっ、鏡がない！」

驚愕する私に、VIPルームから出てきた3人が口々に言った。

「もともとそんな場所に鏡なんてありませんでしたよ」
「突然出てきて、突然なくなったよ。ねえジェイド？」
「ええ。貴方が肘から着陸した途端に消えました」

そんな馬鹿な。というか、どうして鏡が突然現れたり消えたりすることは受け入れられる癖にどうして私の話は信じられないのか。疑問しか沸いてこない。

「そんな、嘘、これから私どうすれば」
「まあ貴方の話の真相は置いておくとして、海の魔女のような慈悲の心で貴方を助けてあげましょう」

アズールが胡散臭げな笑顔を浮かべて自身の胸に手をやった。怪しい。怪しいのに画になるのはどうしてなのだろう。

「実は、ある出来事からイソギンチャクがいなくなりましてね。人手不足で困っていたんです」

イソギンチャクって一体……。

「なので、衣食住を提供する代わりにここ、モストロラウンジでウェイトレスとして働いて欲しいのです」

てっきりとんでもないことを言い出すと思っていた私は、あんぐりと口を開けた。そんなことで衣食住を提供してくれるのか。

「あ……ありがとう、ございます」
「それでは、この契約書にサインを」

契約書はきちんと日本語で書いてあった。

・雇用主の命令には絶対服従
・口答え不可
・供給は仕事服・雨風をしのげる場所・まかない飯のみ

……。はあ？

「絶対服従とか、どんなことをさせる気なんですか！」
「主に雑用・接客。それだけですよ」

嘘だ。絶対に朝から晩まで休む間もなく馬車馬の如く働かされる。アズールの顔に、そうやって書いてある。

それでも今、頼れる人はアズールの他にいない。私に残された道は、これしかないのだ。大人しくサインした。

「それでは、これから僕は貴方の雇用主です」

アズールが私に美しい笑顔を向けた。