【ツイステ】水鏡に蝶が沈む (ページ2)

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おいで、お前は招かれた。ページ2

ひい婆が死んだ。

ひい婆の印象で一番色濃く残っているのは、とにかく嫌な人。そんな罰当たりな事で、だけどそれ以外に適切な言葉が見つからない。

ひいお婆ちゃんと呼べば、もう90歳なのに“まだそんな歳じゃない！”と怒鳴られる。腹がたった。嫌悪が煮えたったので、わざとひい婆と呼んでやった。

兄弟の中で私はひい婆に一番気に入られてなかった。正月に本家に出向かえば、妹や弟には10000円もお年玉をくれるのに、素知らぬ顔をして私の手には100円玉を握らせる。本当に嫌なひい婆だった。

いくら何でもおかしいだろうと意義を唱えたら代わりに歌を歌ってやろうと言われた。歌なんていらなかった。でも、いつもはどす黒いひい婆の瞳が水晶のように光っていたから、聞いてやることにした。

“水鏡に蝶が沈む引きずり込まれて息絶えぬ腐ったそれを歓迎し人魚姫は歌唄う水に身体が融ける時後に残るは悪夢だけ”

気味の悪い歌だった。けれどひい婆がとても穏やかな、何重にも重なった深い声で唄うから聞き惚れてしまった。何もないはずなのに、期待、緊張で胸が張り裂けそうになった。

それからもひい婆は時々、たくさんの唄を聴かせてくれた。その度に高ぶった、ざわざわとしたあの気持ちといったら、言い表しようがない。ひい婆は魔女なのかもしれない。怪しげな魔法で私の感情を操っているのかもしれない。

だけど、もう心が映したあの情景を味わうことは出来ないのだ。

ぎゅうぎゅう締め付けられた心臓から血が登って、涙として溢れ出した。通夜でも葬式でも泣かなかったのに全てが終わってから自分の部屋で泣いてしまうなんて。

これもひい婆の魔法だろうか。

留めなく溢れる涙が枕を濡らしていると、涙を透かして光が伝わってきた。

光の正体を確かめようとグシャグシャになった顔を向ける。ザワッと鳥肌が立った。

私の部屋に濡羽色のオーラを纏う、丸鏡が浮いている。かなり作り込まれている、ゴツゴツとした縁に、境界線のない鏡面。

初めて見るはずのそれに酷く懐かしさを覚え、ひい婆の唄を聞いていた時と同じ感情が秒速で駆け巡った。唇と目玉が震えた。それは私に唄いかける。ひい婆によく似た声で。

“Come……You're invited……”

鏡面に白い手が浮かび上がった。私を手招いてくるその手に手繰り寄せられ、体が鏡へ向かう。

そして私の手が、鏡面に触れた。