孤独の氷刃２

story76. ページ29

「…しません」

「なんだと？」

「許しません…マークス兄さん！レオンさん！！」


カムイ様は涙をためて叫ぶ。

ここまで感情をあらわにするカムイ様を見たのは久しぶりだ。

しかしレオン様はまた冷ややかな視線で見やった。


「…自分勝手だね。あんただってたくさんの兵を殺してきただろ。それとなんの違いがあるの？」

「…っ…！…でも私は正義のために！！」

「正義など…ありはしない」


カムイ様の返答に、マークス様がとどめをさすがごとく告げた。

その言葉に、カムイ様の瞳も揺れる。

…もっともな言葉だからだ。


「甘ったれるな、カムイ。戦など人間の不毛な争いにすぎない」

「……」

「早速だけど、こっちも疲れてるんだ。そっちの士気を下げさせてもらうよ」


レオン様は馬のベルトから木の札を取り出して、こちらに投げた。

カムイ様の頭上を越え、それはエリーゼ様の手元に収まる。


「レオンお兄ちゃん？」


エリーゼ様はその札と兄を交互に見て首を傾げた。

私も横からそれを覗き見る。

木の札には、無数の文字が刻まれていた。

それから龍の絵。

これは白夜のものだろうか。


「それを使ってカムイを倒せ。ただし負荷が大きいから無理はするなよ」

「…！うん、わかった」

「まさか…それは！！」


エリーゼ様のもつ札を見たサクラ王女が、顔を青ざめてそう言った。

他の王女も、それに気がついたようで、同じように顔色を変える。


「カムイ姉様、お逃げください！！」

「…え？」


サクラ王女の叫びと共に、エリーゼ様はその札の呪文を唱えた。

そこからは龍の影が現れ、一直線にカムイ様へと向かって行く＿。


「……っ！！！？」

「…カムイ！！！」


龍はカムイ様の足に当たった。

どうやらこれは白夜の魔導らしい。

…しかし驚くべきはそこではなかった。


「な…これ、は…」


カムイ様の皮膚に、酷い怪我が残っていた。

鎧を貫通して、その中が。


「うっ……」

「エリーゼ様！」


直後、エリーゼ様も馬上に倒れこむ。

…魔力が薄れているのを感じた。

まだ意識はあるが、少し辛そうだ。


「レオン様！これは一体…」

「龍神・辰。…それは竜にだけよく効く呪だ」

「竜…。カムイのことね？」

「そうだよ、カミラ姉さん」


カムイ様を回復しようとしたサクラ王女の祓串を、私は暗器で弾き飛ばす。

…せっかく与えた傷を塞がれては困る。


カムイ様を守るように円を組む王女たちに、私たちは一人一人向き合った。

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