孤独の氷刃２

story67. ページ20

「んーじゃあ、フローラはこっちね！」

「あ、あの…エリーゼ様。あなたもお休みになられていた方が…！」


エリーゼ様に手を引かれて、私は近くの民家へと引きずり込まれるようにして入った。

ここも、見慣れない造りだ。

木製…だろうか。

すぐに段差があって、段差の上には中心が凹んだところがあった。

そこには金属の鍋や、棒もある。


「いいの。あたしはお姉ちゃんのサポートくらいだったし…怪我もないわ」


段差に腰掛けて、エリーゼ様は寝そべった。

暗夜のベッドの方がいいなぁ…と呟かれる。


「ですが、エリーゼ様…。お顔が汚れています」

「え…？」


頰のあたりの黒い汚れを指で拭き取って、エリーゼ様はやっと気づかれたよう。


「やだ…こんなのが付いてたの？レディとしてはまだまだかぁ…」

「…それだけではありません。戦服が変わられています…それはストラジテストの装束です」

「…フローラはよく気が付くね」


一つ声を上げて体を起こすと、エリーゼ様は苦笑いをする。

あまり見なかった表情。

腰に備え付けてあったベルトから、一つの魔導書を取り出してみせた。


「じゃーん！」

「まさか…それは高等魔導では？」

「そうよ、これはライナロック。カミラお姉ちゃんにプレゼントしてもらったの」

「エリーゼ様…こんな短期間で…」

「ふふ。暗夜王女だもん、これくらいはね」


エリーゼ様が手に持っているライナロック。

これはかなりの鍛錬を積まなければ使えない。

戦前からしばらく杖しか持ったことのないエリーゼ様には、とても辛かったことだろう。

しかし、彼女は笑っていられる。


「強くなられましたね、エリーゼ様」

「…えへへ」


あの戦場で泣いてばかりいたエリーゼ様は、今はもう立派な王女様だ。

いや…前からそうだったのかもしれない。

心優しき暗夜の光。可憐な花。

そのいわれは様々。

そんな少女は確かに今、成長している。


「さぁ、休みましょう。夜はずっと起きていなければなりません」

「…そうだね…」

「今のうちに眠らないと、お肌に悪いですよ？」

「…！！ね、寝るわっ」

「それでこそです」


ブーツの音を立てながら、エリーゼ様は戸口に立って背を向けたまま言った。


「絶対……生きようね、フローラ」

「…もちろんです」


私も後で向かうと告げると、エリーゼ様はこの家から出て行った。

その直後、私もエリーゼ様のように後ろから倒れこんで、息を吐く。

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