. ページ6
.
「あのさ、」
「なんだい?」
「私、夏油に言ってなかったことがあって」
「うん?」
ひどく穏やかな空気。
できることなら、このまま時が止まってしまえばいいのに、なんて。
柄にもなくそんなことを願った。
「私、夏油のこと好きだったんだよ」
目を伏せて、告げた。
長く長く、積もってしまった思いを。
彼はわずかに目を見開いて、どこまでも柔らかく笑って。
「奇遇だな、私もだよ」
切なげに瞳を揺らした。
「……、うん。そっか、」
「驚いたよ、まさか君がそんな風に思ってくれていたなんて」
大人びた表情に、垣間見えるどこか照れくさそうな笑顔。
夏油が笑ってくれるだけで、嬉しいはずなのに。
どうにも辛くて、虚しくて。
「……夏油、」
「うん?」
「なんで、置いていったの?」
夏油が一人で行くことを選ぶほど。
私たちは、……私は。
頼りなかった?
信用できなかった?
離れることは、寂しくなかった?
長い年月と共に、言葉にできない思いが募ってしまった。
聞きたくても聞けない。
誰に言うでもない問いだけが増えた。
いつも残るのは後悔ばかりで、何も出来なかった自責の念が溜まりに溜まって。
「……連れてはいけないだろう?」
「でも、」
「……連れては、いけなかったよ。」
「……うん、」
彼の目に、何も言えなくなった。
分かっていた。
夏油はずっと、苦しかったのだと。
.
194人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
日向(プロフ) - ひさん» わああもったいないお言葉ばかり…!!とても嬉しいです!そんな風に言っていただけると、描いてよかったなと思えます。素敵なコメント、大切にします!ありがとうございます! (2022年1月26日 22時) (レス) id: 67ceeec321 (このIDを非表示/違反報告)
日向(プロフ) - 甘雫さん» 思いが一致したという言葉、とても嬉しいです!素晴らしいなんて言っていただけて、本当に光栄です。こちらこそ、嬉しすぎるコメントありがとうございます…! (2022年1月26日 22時) (レス) id: 67ceeec321 (このIDを非表示/違反報告)
日向(プロフ) - たろ。さん» わああめちゃくちゃ嬉しいです…!読んでいただくだけでなくコメントまで、本当にありがとうございます! (2022年1月26日 22時) (レス) id: 67ceeec321 (このIDを非表示/違反報告)
ひ(プロフ) - 泣きました、、自分的にキャラに合ったセリフで特徴?捉えてて共感してすごいな✨て思ったし読みやすくて話が綺麗だし、とにかくめちゃ良かったです…✨素敵な小説ありがとうございました!完結お疲れ様でした✨ (2022年1月25日 23時) (レス) id: 858c606167 (このIDを非表示/違反報告)
甘雫(プロフ) - 映画は場面の転換が早く、感傷に浸る暇もなく泣くにも泣けませんでした。しかし、作者様の夏油傑に対する思いが私の思いと一致し、今泣けました。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2022年1月23日 18時) (レス) id: fa6ec39255 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:日向 | 作成日時:2022年1月18日 1時