第十訓、飯は食える時に食っとけ ページ10
「おいA、家がねェのは本当なんだな?」
「ハイッス」
歩きながら話しかけられる。ちなみに手はまだ掴まれたままだ。離してって頼んだら逃げるだろうと拒否られた。悲しい。
「今までどうしてた」
今まで……。
思い出されるのは生前の暮らし。カブトムシの真似して木の蜜食った時あったなあ。不味かった。
「えーと、適当な場所見つけては1晩過ごすを繰り返してました」
トリップしたとかはさすがに言えないため適当な嘘を付く。孤児ってどうやって生きてるんだろうこの世界。優しい人が拾ってくれたらいいな。
「飯は」
「……しばらく食べてないです」
しばらくの範囲って人それぞれだから解釈は任せる。私の解釈は今日半日。朝飯は茶漬け食べた。
しばらくをどう解釈したのかは知らないが、土方さんの私を掴む手が少し強くなった気がした。やめてくれ折れる。
数分後。
土方さんは屯所ではなく、居酒屋に入った。もちろん私も巻き添えである。何、夜食食べんの?
土方さんは私にメニュー表を渡し、「好きなモン頼め」と言う。……うん?
「腹減ってんだろ。なんか食え」
目線で説明を求めるとそう言われた。優しいな?
しかし、メニュー表の文字を見ても、料理の美味しい匂いを嗅いでも、一向に腹が減る気配は無い。本当に食欲において最強になってしまったのかもしれない。
それでもせっかくの気遣いを無下にすることもできず、しばらく悩んだ末天ぷらそばを頼んだ。
腹減らないのはいいこととして、味覚はどうなっているのだろうか。味覚は食欲関係にダイレクトにくるから一緒に消されてたら悲しいが。
料理が届き、割り箸を手に取る。
「…いただきます」
熱っ。汁飛んだ。
……あっおいしい!よかった、ちゃんと味する!!
「土方さん、ありがとうございます。おいしいです」
「食ってから喋れ」
ずるずると麺を啜りながら礼を言うと怒られた。おかんか。
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作者名:杉元 | 作成日時:2021年4月3日 22時