【歌い手】恋する彼女 vol.11【完】

@こんぺいとう。 ページ27

「いつかライブに行こうね」


そんな末っ子との約束が果たせると思っていたのにどうやら運がついてなかったみたいだ。

……まあ、簡単に当たるとは思ってないけどさー。

電話越しに伝えると泣いてしまうよりも心にくる言葉を貰った。


『僕、そんな凄い人のこと応援してるんだね！会えないのはもちろん悲しいけど…。でも、僕よりも前から応援してる人が楽しんでくれたらいいなぁ。お姉ちゃんも、頑張ってくれてありがとう』


見ない間に成長してた末っ子はとても逞しくて、私に似て優しい言葉を言えるようになっていた。そうだね、でも私は末っ子の笑顔も見たかったな。なんて弟よりも心が狭いと感じてしまった。

そんな時にとても心優しい方が声をかけて下さって。


「お探しするのお手伝いします」


音もない文面がとても暖かく感じたのは初めてではないけれど、優しさって画面を越えてもやってくるんだな、なんて。そっか、まだ諦めなくてもいいんだ…。


「よし……！お姉ちゃん頑張るぞ…！」


ありがとうございます。と返信を送って、考えも付かなかった行動を取る。ライブ自体初めての経験でどんな場所なのかも曖昧な夢の世界。そんな場所に踏み出せるのは選ばれた人のみで、貴重な存在なのだ。


「……うーん、定価で行きたいのにな」


スクロールで広がる画面には『＋上乗せ』という文字。元々倍率の高いそこに行くためには覚悟がいると思ってはいたけど。

……ああ、同じ条件に立つことも許されないんだ。
そのお金が彼らの元へと届く訳でもないのに神様に認められた人が図に乗ってチケットをチラつかせているんだ。

ただ好きなだけなのに顔も知らない人に踊らされないと行けない場所なんだ。
ただ弟に合わせてあげたいだけなのにこんなにも難しいことなんだ…。
スタート位置がそもそも違うんだ？
アナタと私じゃ差が大きすぎるってか…？

「笑わすなよ」

自分の利益ばかり考えるソイツに。
労働に見合った金の稼ぎ方も知らないソイツに、くれてやる金なんて1円もねーわ。

元々神様にも見つけてもらえなかったのだから、こんな仕打ちが来ても当然なのか。
……日頃の行いは良い方だと思ってたんだけどな。

でも彼らはまだまだ上を目指す人たちで、終わりがないと信じていたいから次があると思えば楽になる。少し約束の機嫌が伸びるだけ。
また……、いい子にするだけ。


「ごめんね。…お姉ちゃん失格だ、」


諦められない悪いお姉ちゃんでごめんね。

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