Drunken Whale 3

炎と煙 ページ25

(side Marco)


Aの捜索から3日が過ぎた。Aはおろか手がかり一つ掴めず、船内には諦めムードが立ち込めていた。


俺に聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声量でクルー達が諦めの言葉を漏らす。その度にサッチやラグナが不機嫌になるもんだから余計な面倒をかけさせないで欲しいものだ。


Aを攫って行ったらしい海と空はすっかり凪で、自分らが奪ったものなんて何も無かったみてえな顔をしやがる。


マ｢…チッ｣


船縁にもたれかかり舌打ちを零していると船内からフラフラ出てきたイゾウが隣にもたれる。


イ｢良い天気だなあ…｣


海に背向けたイゾウがパイプの煙を燻らす。目は閉じて空も海も見ちゃいない。


イ｢こんな日にはいい拾い物しそうじゃねえか｣


マ｢そりゃ慰めてんのかよい｣


イ｢そんな顔してれば、慰めたくもなるさ｣


言われて始めて自分の眉間に寄った深い皺に気づく。グリグリと指で抑え込むと反動か大きく息が漏れる。


イ｢知っての通り、士気が落ちてる。時が来れば…腹割れよ｣


いつまでもこうしている訳にもいかない。いくら仲間の死を許さない親父であろうと自然の前では目を瞑る事もあるだろう。それが海の上で生きる生き物の常だから。


記憶の中のAはロウソクの火みたいだった。弱々しいが芯が尽きるまでそこで息づいていて、時折大きく揺れるのがいつか酔った時に一瞬触れたポニーテールみたいだ。


イゾウの言葉でまた大きく揺れる。チリチリと取り戻していく炎は俺の希望で幻なのかもしれない。もう、この世で彼女が息をしているのは俺の中のちっぽけなロウソクの、そのまた一部、細い芯の上だけかもしれない。


イ｢別れの言葉を言っちまうのはまだ早いかもしれんが、俺はAがあんたに出会ってくれて良かったよ｣


フッと大きく煙を吐いたイゾウは遠い目をしていた。


マ｢俺も親父もこの船も、こんだけ引っ掻き回されてんだ。とんだ厄病神だよい｣


イ｢思ってもいねえ事言いやがる｣


クッと喉を鳴らして笑うイゾウは至っていつも通りだ。士気が落ちる出来事は数えきれない。むしろ日常茶飯事で、隊長陣が落ち着かなくなる事も珍しくはない。そんな時でもどっしり構えなきゃならないと身を引き締める隣には大抵この男がいるもんで、時にはそんなこの男の態度に背を押される事もあるのだ。


船縁から背を離したところで見張り台が声を上げた。


見｢何だ、あの男…！｣


指差す先には1隻の小舟と男が1人。


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