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山田の車の助手席で、少し前までは楽しく話せていたのに、今日は緊張して黙ってしまう。
車の中は、俺の知らない洋楽が小さな音で流れているだけ。ウインカーの音がいつも以上に大きく聞こえる気がする。
山田もずっと静かだ。
ついこの前まで、仮でも恋人だったんだよなぁ。
会ったらまた泣いちゃうと思ったけど、いつのまにか俺も大人になっていたらしい。好きだけど、胸の奥にぎゅっとしまえている。
山田の玄関まで来ると、先にリビング行ってて、とドアを開けてくれたので、言う通りに廊下を進んだ。
リビングについた時、伊野尾ちゃん、と山田に呼ばれ振り替えると
「え…」
後ろから来ていた山田が、いつの間に手にしたのか、大きな花束を持っていた。ドラマや映画で見るような、真っ赤な薔薇の花束を。
「まずは、仮の恋人なんて最低なこと謝らせてほしい。傷つけてごめん。つらいことさせて、本当にごめんなさい。」
泣きそうな声で花束を持ったまま、深々と頭を下げる山田。
状況がいまいち飲み込めなくて、言葉が出てこない。
顔を上げた山田は真っ直ぐに俺の目を見た。
「こんな最低な俺だけど、伊野尾ちゃんがもし許してくれるなら、やり直させてほしい」
…やり直す?
「伊野尾ちゃんが好きです」
これは、夢?
「俺と真剣に、付き合ってもらえませんか」
視界がぼやけて山田の顔がよく見えない。
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作者名:雨のち雨 | 作成日時:2024年3月17日 23時