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お昼を食べた後は、俺の好きなデザイナーの展覧会に付き合ってもらった。興味ないかもしれないとも思ったけど伊野尾ちゃんは楽しそうにしてくれた。
「山田とじゃなかったら来てないと思うから良い機会だったなぁ」
「本当?楽しめたなら良かった!」
帰りの車のなかも、鰻の話や展覧会の話で尽きなかった。
次はどこに連れてってあげようかな。
伊野尾ちゃんはきっとどこに行っても楽しんでくれるだろうな。
「あぁ、もう家に着いちゃう」
伊野尾ちゃんのマンションが見えた時、寂しそうに言う伊野尾ちゃんに、
「またすぐ出掛けようよ」
そう言ったのに、窓の外に顔を向けたまま返事がなかった。
「山田、本当にありがとう」
駐車場について、シートベルトを外した伊野尾ちゃんは、俺の目をみて、泣きそうな顔で微笑んだ。
「…またすぐ出掛けようよ!」
どうしようもない不安が急に襲ってくる。
次はどこ行くって、笑ってよ…。
「ううん、もう大丈夫だよ。もう仮の恋人じゃなくていいよ。メンバーに戻ろう。」
「え?なんで…急に」
「ずっとこうしなきゃって頭では分かってたけど、幸せだったから、山田に甘えてた。俺なんかに付き合ってくれてありがとう。」
「ちょっと待って!俺…」
「ちょっとだけ傷心タイムに入るから、1週間だけ待って!次のグループ仕事までには元気に会うから!じゃあね…っ」
無理矢理作った笑顔を見せて、車から降りていった伊野尾ちゃんはそのまま走ってエントランスを抜けていった。
最後ほとんど泣き声だった。
きっと今、伊野尾ちゃんは泣いてる。
それなのに、俺は追いかけることも、伊野尾ちゃんに連絡することもできなかった。
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作者名:雨のち雨 | 作成日時:2024年3月17日 23時