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「いい彼氏でしょ」
って山田が笑いかけてくれたときに、一瞬だけネガティブな俺が顔を除かせた。
(仮のね)
って耳元で囁かれた気がした。
俺ってこんなに気にするタイプだったけ…テキトーが売りのはずなのにな。
「はい、伊野尾ちゃん、お先にどーぞ!」
まだ箸をつけていない蒲焼きを山田が差し出してくれる。
「山田も先どーぞ!」
と、自分の白焼きを差し出した。
「「美味しい!!」」
2人で目を合わせて、声が揃ったから、なんだかおかしくって声を出して笑った。
仮の恋人生活が始まってから一緒に食事をすることが増えた。今日も2人とも当たり前かのようにそれぞれの料理をお互いがひとくち食べていた。
それが少し嬉しかった。2人の関係が作り上げられていく。
でもやっぱり、もう終わらせなきゃ。
2人の距離が近くなっていくのは嬉しいけど、これじゃ戻れなくなる。
能天気にいけるとこまで仮でもなんでも付き合ってればいいのに。そう思うのに、それができない。
幸せだけど、いつ山田から伝えられるか分からないこの関係の終わりに怯えているのも、呪いのように仮って言葉が頭にこびりついてるのも、俺が弱いから。
山田が俺に付き合ってくれてるのに、ただただ喜べない自分が何よりも嫌だ。
せっかくのデートなのに、楽しめばいいだけなのに、朝、山田に会っただけで、大丈夫って思ったのに。だめだなぁ。
このデートが終わったら、ちゃんと俺から言おう。
良い思い出作ってもらえて、もう充分だ。
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作者名:雨のち雨 | 作成日時:2024年3月17日 23時