【HQ】溢れそうでも、零れそうでも、

笑った顔 ページ22

▽



たまたまだ。
授業中に寝るとか、侑じゃあるまいし。
いつもはちゃんと起きてるし、こんなことになっても、どうにかなる。
今回は別として。



勢いで奪ってしまったノート。

そこには全部で五問。綺麗に書かれた文字を見る。


テスト期間。多分、誰よりも多く見た文字。丸っこいのに、綺麗な字。


瀬名が起こしてくれたことをまだ少しだけ重い頭で考える。
…ああ、マジでばかみてえ、寝ててよかったとか、ほんとに。

恋に頭やられてる。
こりゃいよいよ重症だわ。



触られた肩が、なんだかとてもむず痒くて、自然と耳に熱が集まるのが、わかった。
まだ十分に長さのあるチョークを持って、瀬名の答えをまるごと黒板にぶつける。


＿＿うん、当たってんじゃん。


前に、聞いた。
瀬名が言ってたこと。


この教科が苦手だ、って。
いっぱい勉強してたからだろうか、それとも、これがまだ簡単な方だからだろうか。

後者ではないとおもうけど、どっちにしろ、苦手だったのができるようになってるって、やっぱりまっすぐで、すごいヤツ。

最後の文字を書いて、席に戻る。


「間違ってたらごめんね…」
後ろにつきまとう、苦手だから。

「や、俺が寝てたから別に」
…合ってるよ。当たってる。

「疲れてたんでしょ、お疲れ様」
全部、できてんだよ。




それでも、黒板に丸が5つついた瞬間、

いつかと同じように、すごい嬉しそうに笑うもんだから、本当はその場で計算できたこと、これは秘密にするべきだなって、思った。



「役に立ててよかった」




その笑顔が、
どうせならもっと見たい。




「……ん、起こしてくれてありがと」




素直な言葉は、正直苦手だ。
でも、




「こちらこそ…！」





瀬名が喜んでくれるなら、いくらでも
言ってやれる。

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