歪んだ愛がつらかった【knsm】 ページ43
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「この煙草の匂い、なんや」
帰宅早々、こう問い詰められてしまっては、頭が回らず、
帰宅途中に用意していた言い訳も出てこない。
いつにも増して真剣なまなざしで言う彼は、私の肩をがっちりと掴み、見下ろす。
『…煙草？シッマのじゃなくて？』
「とぼけるんか」
『何が言いたいの？』
「浮気してんのやろ」
いつもは結論までの最長距離を走る彼の言葉が、今日は全てストレートでミットに帰ってくる。
『シッマはどうなの？』
「今はお前の話や」
『風俗やめたの？』
「質問に答えろ」
『お気に入りの嬢…えっと、百合亜さん、だっけ？最近行ってないの？』
「…！……浮気、してるんやろ」
一瞬瞳孔が揺れるが、次の瞬間には、目が据わっている。
さすがコネシマという男。これだけ煽っても、一切質問の目的を変えない。
保守より攻め。今の主導権は俺だと言わんばかりに、もう一度同じ質問をしてきた。
『浮気してたらなんなの？』
「……」
あざが残るほど強く握られていた肩はその時解放された。
彼はため息をついてソファーに座る。
彼が火を付けたら、いつも通り煙が舞った。
「別れよう」
不思議とその言葉は、スッと脳に入っていく。
予想が出来ていたからだろうか、それとも、他に頼る先があるから、
それとも、
彼との関係に、疑問を持っているから。
『一週間後、荷物取りに来る。』
「…わかった」
ドアを開け、部屋を出る。
新居へと足を動かすと、停止していた脳も動き出した。
お互いのことをさほど話し合わなかった私達。
彼について知っていることは、どれほどあるんだろうか。
彼は私について、何を知っていたんだろうか。
彼は私のことを好きだったんだろうか。
住宅街を少し歩いた先で、くるっと後ろを振り返る。
『探偵さん。もう追いかけてくる必要はありません。私たちは別れたんです。
私と彼は、今日から何の関係もない他人です。
1年間お疲れ様でした。報酬は彼から、たんまり受け取ってください。』
電信柱に隠れていた肩が、一瞬目視できた。
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作者名：ミルコ | 作成日時：2019年11月2日 14時
